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前ページ次ページゼロのペルソナ 「やっと終わった……」 ルイズは自分の失敗魔法による爆発でめちゃくちゃにしてしまった教室の掃除がやっと終わり食堂に来ていた。 魔法も使わず一人で机の片付けをしたのだからくたくただ。 ふらふらと座る場所を探していると声をかけられた。 「あらもう片付け終わったの?」 すでに食事の席に着いているキュルケだ。その対面の席にはタバサが座っていた。 からかうような口調であったが疲れているのでルイズはムキになる気力もない 「もう、じゃないわ。やっとよ……」 憮然と答えながらルイズはキュルケの隣の席に座る。他に席がないからだ。そうでなければキュルケの隣になど座るものか。 と、ルイズは心の中で誰にいうわけでもない言い訳をする。 「ねえねえキュルケチャン?」 朝と同じく使い魔でありながら魔法使いの食事の席に着いていたクマが言った。そのことにルイズは不機嫌そうな顔を見せるが キュルケはそんなルイズに構う様子もない。それは陽介を自分の隣に座らせているタバサも同じだ。 「なによ、クマ?」 「なんだか、あっちのほうが騒がしくないクマ?」 とクマはルイズが来た方向とは反対側、つまり食堂の奥の方を指差す。いや、親指とそれ以外の指の二つに分かれている手なのだから手差すとか腕差すというべきか。 キュルケ、それと陽介もクマの示す方向を見る。 「ああ、なんか騒いでるな」 「面白そうね、見に行きましょ。行くわよ」 その声に応じてクマはイスからピョンと飛び降り、食事を十分とったであろうタバサ、陽介もキュルケの野次馬に付き合うことにする。 ルイズは構わず食事を始めようとしていたのだが 「ほら、ルイズも行くわよ」 キュルケはぐいと腕を引っ張りルイズを立たせて来る。 「ちょっとあんたらだけで行きなさいよ!私はまだ食事も……」 「ご飯なんて後で食べられるじゃない!さ、クマも手伝って!」 クマに反対の腕を取られ、ルイズは騒ぎの方向へと連れて行かれる。 ルイズは清掃で疲れていたので、抵抗をやめぐったりとしながらキュルケたちになされるがまま歩いていく。とにかく早く終わって食事をとりたい。 5人の中で一番早く歩いていた陽介が人だかりを見つけた。どうやらその人だかりの中に騒ぎの原因があるようだ。陽介は近づいて、中を見て声を上げた。 「げっ!完二が誰かつるし上げてっぞ!」 「何ですって!?」 ルイズは覇気なく両脇から抱えられていた様子から一変して、キュルケとクマの腕を払い人だかりへ駆け寄る。朝から彼女の頭を悩ませていた使い魔の名をこんなところで聞こうとは。 キュルケ、クマ、タバサも続く。 ルイズも陽介と同じ光景を見て驚きの声を上げる。完二が魔法使いの首根っこをつかみ持ち上げているように見える。よく見るとつかんでいたのは首ではシャツであったが。 「何やってるのよ、あのバカは!」 「ぶら下がってるのはギーシュみたいね」 金髪、それに手に持ったバラの杖を持った杖からもそれは明らかだった。キザったらしくうっとおしいヤツだが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった 。バラの造花なんて妙な杖を使っているのはギーシュ以外に見たことがないが、彼のセンスも問題ではなく彼がすでに杖を取り出していることが問題だ。 「とにかく止めないとカンジが危ないわ!」 陽介が不思議そうな顔をする。 「完二が?あの金髪のほうじゃなくて?」 「あんたたちは本当に貴族の……魔法使いの怖さがわかってないのね!ギーシュが本気を出す前に……」 ルイズの言葉が言い切られる前にワルキューレが現れた。窮地に追いやられたギーシュが、目の前の無礼で危険な平民を排除するために呼び出した彼の兵である。 土のメイジが得意とする錬金で作り出した青銅のゴーレムだ。それは大人ほどの背丈もあり、決してその攻撃は平民に耐えられるものではない。たとえ人並み以上に体の大きな完二でも。 ワルキューレは青銅の拳を完二へと振りかぶった。 「危ない!!カンジ!!!!」 ルイズは叫んだ。 完二は向かい来る敵意を横目にしながら危険を感じなかった。いや、彼はその自分に向けられた暴力を敵意とすら見なさなかった。 金色のカードが彼の目の前に現れる。それを、ギーシュを掴み上げている左手とは逆の、自由な右手で叩き割る。 「砕け!!ロクテンマオウ!!」 彼の背後に巨体が現れた。 それは真っ赤な体にオレンジがカラーリングされた金属のような体を持つ。上半身が異様に大きく、燃え盛る炎の色をしたボディとあいまって力強さを見せる。 そしてその手にある得物を青銅のゴーレムに叩き付けた。 キルラッシュ――その破壊の打撃がワルキューレに一度、二度と叩き込まれる。 攻撃を終えたロクテンマオウが姿が消すと残ったものはワルキューレの姿の名残すらない金属の塊であった。 ギーシュは目の前に現れた巨大な力も、自分のワルキューレが破壊されたことも信じられないのか、呆然としている。 周りを取り囲んだいた魔法使いの生徒たちも、自分の使い魔が叩きのめされるのを想像した彼の主も、そして彼と同種の力を有する陽介とクマも呆然としていた。 しかし回りのことなど構わず完二はギーシュを怒鳴りつける 「おい、俺は人のことを影であーだこーだ言うやつが嫌いなんだよ!ルイズの陰口をもう二度というんじゃねえぞ!」 呆然としていたギーシュは現状を思い出しコクコクと頷いた。 「つーか、あとでシエスタにもわび入れとけ!わかったな?」 ギーシュは更に早く首を上下に動かした。 ちっ、と言いながら完二はギーシュを話す。ギーシュは無様にケツから落ち、首元を押さえゴホゴホと咳き込んでいた。 「カンジさん……」 その衝撃が流れていた状況下で最初に声をかけたのはシエスタだった。 「よう、大丈夫か……」 「ちょっとカンジ!なんなのアレは!?」 完二が言い切るか、言い切らないかというところにルイズが割り込んできた。 今朝に喧嘩別れした自称完二のご主人さまに、完二はいきなりどう対応したいいかわからず頭をかいた。 「あー……なんだルイズじゃねえか、どうした?」 「どうした?はこっちのセリフよ!?あれは何?魔法使いなの?ゴーレムなの?今まで隠してたの?」 何を言ったらいいかわからない完二に対し、ルイズは言いたいことが多くあるようだ。バケツの水をひっくり返すように質問が飛んでくる。 「んなまくし立てられてもワケわかんねえよ!」 質問の乱発に完二の情報処理能力はすぐに容量がいっぱいになってしまう。 ルイズが更に言葉を並べようとするところへ陽介が割って入る。 「ちょい待ち。ここは人が多すぎる。移動しようぜ」 タバサ、キュルケ、クマが賛成の色を示し、しぶしぶながらルイズも従う。完二も当然彼らと一緒に行く。 再びタバサの部屋に6人が揃った。 「それにしてもまさかペルソナ能力が使えるとはなあ……。よく気付いたな、完二」 「いや、気付いたっつうか、ムカついてて実を言うとペルソナ出したことに気付いたのもついさっきなんスよ」 完二はなんとも間の抜けた答えをす。 「なんだよ、そりゃ……ってぶっちゃけそんな気はしてたけどな」 「完二は考えるより行動派だからクマね」 「おいクマ、テメエ、バカにしてんじゃねえだろうなあ……」 少なくとも行動力の高さを褒めているのではないことを感じ取り、完二はドスの利いた声を出した。 だが完二の迫力ある低い声も、もっと大きな声で消されてしまった。 「ちょっとあんたたち私たち無視してんじゃないわよ!」 どうやらルイズに使い魔たちが主たち抜きで盛り上がっている様子は、沸点を上回るには十分すぎたようだ。 完二はルイズという少女の沸点は高くはないだろうと思っていたので驚く事実でもないが、クマと陽介はひどく驚いたようだ。 「ごめんクマー」 クマはルイズの噴火に脅えキュルケの陰に隠れる。 「ちょ、違うんだよ、情報整理だよ。俺たちも混乱してて……」 「ならささっと説明しなさい!」 ルイズの噛み付くような態度に陽介もおののいて(クマのように主の影に隠れたりはしなかったが)、大人しく説明を始めた。 完二、陽介、クマの三人は世界にはテレビという映像を見る機械があること。 彼らがテレビに入る力を得たこと。 彼らテレビの中でペルソナという力を使えるということ。 ペルソナは外敵に対するための心の仮面だということ。 完二のペルソナは名をロクテンマオウ。赤い金属のような体を持ち、雷属性の力を使いその物理的な力は随一であること。 陽介のペルソナはスサノオ。疾風属性の力を持つこと。 クマのペルソナはカムイ。氷雪属性と回復の力を持つこと。 などを説明した。 説明で一番困ったのはテレビの説明であった。この魔法の世界で、科学技術の結晶の説明をすることは一苦労なうえ、 それを理解されるとテレビの中に入るとは映像の中に入ることとは違うということを説明しないとならなかったからだ。 それらの最難関をなんとかこの世界の少女たちに説明し終え、質問はこの世界にも存在する魔法のことに及ぶ。 「雷属性と疾風属性?雷は風の系統の中にあるんじゃないの?」 キュルケが質問してくる。どうやらあちらとこの世界では魔法のことさえ勝手が異なるようだ。 「いや、雷は雷だろ。俺たちの世界のテレビの中じゃ……ってややこしいな。とりあえず別の属性だった。 ペルソナの力は雷、疾風、氷、炎の4つが基本だな。つっても物理攻撃と闇・光、あとどれにも属さないメギドみたいなものもあったけど」 「分類の仕方が違うのね……」 今まで黙っていたタバサが質問する。 「あなたたちはどれくらい強い?」 ルイズとキュルケもじっと三人を見た。実のところ、それはキュルケとルイズも強く知りたがっていたことかもしれない。 「けっこう強いと思うけどここだと何処まで通用するかな……」 陽介は答えを濁した。あの世界でも相性によっては敵の強さが何倍にもなることはままあった。ならばこの世界ではどうなったものかわからない。 「カンジ、あのゴーレムはどうだったクマか?強かったクマか?弱かったクマか?」 完二はさきほど叩き潰したワルキューレを思い出した。先ほどは武器もなく、また頭に来ていたのでロクテンマオウで破壊した。しかし…… 「ザコだよ、あんなもん。キルラッシュ使ったけどよ、武器さえありゃ殴っても簡単にぶっ壊せたぜ」 完二の言葉に少なからずルイズ、キュルケ、タバサの三人は少なからず衝撃を受けたようだった。 話を切り上げることを提案したのはルイズだった。 キュルケはまだまだ聞きたいことはあるし、午後の授業までは時間はあると反対したが、 ルイズはまだ食事を済ませていないと言ってこれ以上は食事の時間もなくなると言った。こうして6人の話は終わりおのおの部屋から出て行った。 「カンジ、ついてきなさい」 完二はしぶしぶと気乗りしない様子でついて行く。 先ほどのケンカ騒ぎで忘れかけていたが二人は朝食時の時にケンカ別れしたのであった。 二人になったとたんそのことが二人にとって強く思い出され、喋りづらい雰囲気になる。 その雰囲気を先に壊したのはルイズだった。 「カンジ、あんたも一緒に食事にしなさい」 「ああ?」 ルイズの顔は真っ赤であった。朝の仕打ちを思いその前言を撤回すること、 そして手ひどく扱ってきた使い魔を認めるのはルイズのとって大きな勇気のいることであった。 「あんた私のためにギーシュに怒ってたんでしょ?」 彼女は完二がギーシュのワルキューレを倒したあと、ギーシュに言い放った言葉を思い出した。 ルイズの陰口をもう二度というんじゃねえぞ!と、彼は確かに言った。 彼女は魔法学院に入ってから一人で戦い、耐え忍んできたと思っている。 誰も彼女をかばってなどしてはくれなかった。だが完二は衆人環視の中で言い放ったのだ。 それがルイズにとっては――絶対に認めたくないが――嬉しかったのだ。 「今からは食事を一緒の席でとることを特別に許可してあげるわ。寛大なご主人様に感謝しなさい。 もちろん怒ってくれたのが嬉しいってわけじゃないからね! ただあんたがそこそこ力を持ってるならそれに見合うだけのご褒美を与えるのは主人の役目っていうか……」 ルイズは顔の赤みを増やしながら途中からろれつも怪しくなる。 「いや、昼飯ならもう食ったぜ、厨房で」 完二はあっさりと気の利かない一言を言った。 ルイズの顔から一気に朱が引く。 「つか、朝飯もそこでもらったんだけどな。マルトーのおっさんは気のいい奴だしよ……。ってどうしたんだその顔」 完二はやっとルイズの顔に不機嫌の表情が貼り付けられていたことに気付いたようだった。 「なんでもないわよ!」 「なんでもないなら怒鳴んなよ……」 「あんたはこれからずっと使用人たちと一緒にご飯食ってなさい!」 ルイズはご主人さまの気遣いも理解できない使い魔に一瞬でも貴族の食事を許そうとした自分に腹を立てると同時に、 食事を共にするなどこれからも許さないと胸に固く誓う。 完二はもとよりそのつもりであったのかそう言われて特にどうも思ってないように見える。しかしやはりルイズの不機嫌の理由がよくわからないようだ。 「ナニ怒ってんだよ?」 「怒ってない!」 気の利かない使い魔からルイズはぷいっと顔を背ける。 「怒ってるじゃねえか、ったく、これだから女ってのは……」 はあ、と完二はタメ息をこぼした。 ルイズはご機嫌ななめで、完二は文句をこぼす。 それでも二人は並んで歩く。 前ページ次ページゼロのペルソナ
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どんな者だろうと人にはそれぞれその個性にあった適材適所がある ゼロにはゼロの・・・・・ ギーシュにはギーシュの・・・・・ それが生きるという事だ 使い魔も同様「強い」「弱い」の概念はない by○ィオ ここまでのあらすじ ギーシュが謎の平民を召喚したようです。 ルイズはサイトを召喚したようです。 「感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて普通は一生ないんだから」 ルイズはサイトに顔を近づける。 「我が名は(ry」 『な、ちょ、ちょっと………』 ドン! ルイズはサイトに思いっきり押し返されてしまい、キャッと悲鳴をあげ尻餅をつく。 「何するのよ!平民が貴族に………!」 ダメよ!ルイズ!怒ってはダメ!この平民も急なことで混乱しているのよ……! ルイズは自分に言い聞かせると、サイトににこりと笑みを向けた。 「心配しなくていいのよ」 笑顔を向けられたサイトも、いきなりルイズを突き放したことに少し罪悪感を覚える。 『あ、わ、わりい。そんなに強く押したつもりは……』 お互い言葉は分からないが、相手に敵意が無いことはなんとなく分かった。 今度こそキスをしようとルイズが近づくが…。 「きゃ!」 さっきこけた時に足を痛めていたのか、ルイズがバランスを崩す。 そのまま倒れたところにサイトがいたため、二人はそのまま頭をぶつけ合った。 二人とも頭を押さえているところで目が合う。 ルイズは冷静になって今の状況を見てみる。ルイズは馬乗りでサイトの股の上に座っていた。 思わず無言で今度はルイズがサイトを突き放した。 『何すんだよ!』 頭突きをされた上に、突き飛ばされたサイトは怒鳴り声を上げた。 「なななな、なによ!あんたが変な所触るから!」 『なんだよ!悪いのはお前だろ!』 にらみ合う二人を見かねて、コルベールが割ってはいる。 「君たちこの神聖な儀式で何をやっているのですか!?」 二人は声のする方を向き同時に叫んだ。 「『うるさい禿!』」 「あああああああん!?誰の頭が波兵だって!?」 コルベールの目つきが急に変わる。 「まったく!ヴァリエールったら!またおちょくるネタができたわ!あなたもそう思うでしょ?」 ルイズとサイトのコントを見ていたキュルケが笑いながら、タバサに尋ねた。 「興味ない」 タバサはそれだけ言うと、再び本の世界に没頭し始める。 「何よ~つれないわね~。それにしても平民が2人も召喚されるなんて前代未聞よね!」 そう言ってギーシュの方を向く。 「あまりからかわないでくれ……」 いつもの明るさも無くギーシュはうめいた。さっきギーシュはルイズより先に平民を召喚したばかりだ。 しかも男。ギーシュは泣きながらこのグッチョと名乗る男とキスを交わしたのだ……。 「ほんと、さっきのあなたの顔『傑作』だったわ。タバサもそう思うでしょ?」 キュルケは再びタバサの方を向き同意を求める。 「…………」 完全無視。いつもならどうも思わないのだが、なぜかこの時はカチンときたキュルケは、タバサの本を奪って地面に叩き付けた。 数秒の沈黙の後、タバサがキュルケを見上げる。 「拾って」 「話しかけてんだから、反応しなさいよ」 いきなり一触即発という重苦しい雰囲気が生まれる。横にいたギーシュは慌てて二人をなだめようとする。 「君たち?急にどうしたんだい」 なるべく明るく話しかけるが……キュルケとタバサが急にそれぞれ後ろに跳んだ。そして彼女たちの手には杖が握られている。 「ちょちょちょ!ななにやってんだよ!二人とも!コルベール先生!」 慌てたギーシュが先生の名前を呼ぶ。 が、ギーシュがコルベールを見たとき彼はちょうど爆発で吹き飛んでいるところだった。 その魔法の主は言わずもがな……ギーシュは今度はルイズの名前を叫ぼうとした。何やっているんだと。叫ぼうとする。 しかしそれを言う前にルイズは、ルイズが呼び出した平民の使い魔に顔面を殴られ吹っ飛んだ。 「…………ッ!!!」 ルイズが鼻血を噴出しながら、後ろに倒れそうになる。そこをチャンスとサイトの追撃の蹴りがルイズのみぞおちを突き刺す。 本来なら地獄の苦しみを味わうところだろう。しかしルイズは血まみれの顔で笑っていた。 サイトが驚愕の顔でルイズを見る。サイトの蹴りはルイズのみぞおちをえぐる前に、ルイズの両手で掴まれていたのだ。 ルイズは笑いながらサイトの足を捻る。 グッっとうめき声を上げたサイトだったが、もう片方の足で大地を蹴り上げ、ルイズの捻りに合わせるように体を回す。 そしてその蹴りはルイズのアゴをこすった。三度吹っ飛ぶルイズとサイト。 ルイズは鼻血をマントで拭うと、それを外して後ろに投げた。さらに杖を構えてサイトを睨みつける。 サイトは妙な方向に曲がった片足を見た後、関係ないというように立ち上がりルイズを睨みつける。 二人は暫く睨みあった後笑顔で呟いた。 「私よ!」 「『最強は』」 『俺だ!』 THE ENDおおおおおおおお!よっしゃああああああああ! マリコルヌは地獄絵図と化した広場で、どうすることもできずにいた。 なにが起きているんだ!? 後ろでは生徒と生徒が、右では使い魔と使い魔が、左では生徒が自分の呼び出した使い魔と死闘を演じている。 超巨大なツララが宙を舞い、それに向かってこれまた超巨大な炎の球が飛んでいく。 「オラオラオラオラ!」「無駄無駄無駄無駄無駄!」 前方の広場の真ん中ではルイズの爆発と、それを縫うようにして避ける平民が壮絶な争いを繰り広げていた。 よく見ると、平民の左手のルーンが光って……いやあれはルーンじゃない!体の至るところが光っている! しかもさらに回りを見回すと、それはその平民だけではなかった。 生徒だけでなく使い魔までもが、体の至るところが光っていたり、ドス黒くなっていたりしている…。 ドォン!! 大きな爆発音にマリコルヌはサッとに頭を守る。そしてそのとっさの行動は正解だったようだ。 親方!空から女の子が! マルコルヌに向かって落ちてきたタバサは、彼に当たって地面に落ちた後、一回跳ねた。 マルコルヌは痛む腕を押さえて恐る恐る見てみる。タバサは仰向けに倒れたままピクリとも動かない。 杖は握ったままだが、その腕からは血が流れている……。 思わず後ずさる。すると足元からピキッと何かガラスが割れるような音がする。 うわ!っと叫び声をあげ見てみると、メガネを思いっきり踏んでいた。 手にとってみると、右のレンズが地面にポロっと落ちた。形も妙にひしゃげている。 「返して」 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」 慌てて声のする方を見るをさっきまで倒れていたはずのタバサがすぐ近くまで寄って来ていた。 「あああ」 足の力が抜け思わずその場にへたれこむ。 タバサは腕やひざから血を流し、肩で息をしていた。右目を閉じたまま開こうとしないし、髪が少し焦げているようだ。 服も所々焼け焦げていて、そんな箇所からタバサの肌が見えていたが、まっ黒くなっていた。 ただ顔色だけは血色がよく、少し火照った顔をしていた。 「返して」 再びタバサが言う。マルコルヌは慌てて意識を元に戻すとメガネをタバサに差し出す。 タバサはそれを掛けるが、自分の顔にすでに合わないことを知るとそれを投げ捨てた。 そしてマルコルヌを睨む……いや、彼の後ろにいる存在………キュルケを キュルケも同じように、いやそれ以上に満身創痍という感じだった。 こちらは体中が切り傷だらけ。もともと大胆に切り開かれた胸元はさらに、裂けて今にも見えそうだった。 しかしキュルケはそんなことお構い無しという風な様子だ。 「あら?チャームポイントが壊れちゃったのね?」 キュルケが笑う。 「必要ない。見える」 タバサも笑う。 …………二人が呪文を唱えるより速く、マルコルヌは駆け出していた。 今までの人生でこれほど速く動いたことは無かっただろう…………さすが風上。 その時。 「それ以上近づくな!」 急に声を掛けられストップする……が勢いあまってこけて顔面から地面にダイブしてしまう。 鼻血を押さえながら見上げると、そこにはギーシュとそれに隠れるようにしているモンモランシー。 その顔にはいつものおちゃらけた様子は全く無い。 ギーシュ・ド・グラモンお前もか!思わずそんな言葉とともに今までの人生が走馬灯のように駆け巡る。 マルコヌル…お前はりっぱにやったのだよ……そう……自分で誇りに思うくらいね…… フフフフフフウフフフフマリコルヌフフフフフフマリコルヌ!マリコルヌ!! 「マリコルヌ!しっかりしたまえ!僕は君を襲ったりしない!」 そこでマリコルヌはやっと、ギーシュが自分に呼びかけていることに気づいた。 「ギギギギギギーシュ!君はまともなんだね!!!」 マリコルヌが思わずギーシュを抱きしめる。 「みんながおかしいんだよ!!!どうすれば!!??」 「落ち着くんだ!ホラ素数を数えるんだ!」 仲良く素数を数え始めた二人を見て、モンモランシーが緊張した面持ちで声を掛ける。 「そんなことしている場合じゃないでしょ!ここは危険よ。原因は分からないけど早くオールド・オスマンに知らせないと!」 「モンモランシー!男同士の友情に水を差さないでくれたまえ!」 ギーシュが非難の声を上げる。正直マリコルヌはモンモランシーの言うとおりここからさっさと離れたかったのだが ギーシュが自分の味方をしてくれるのも悪い気はしなかった。 「何よ!私より『かぜっぴき』のほうが大切だっていうの!?」 「『かぜっぴき』じゃない!『風上』だよ!」 モンモランシーの発言に慌てて突っ込みを入れる。 「モンモランシー今のは失礼だよ。彼だって彼なりにがんばってんだ!ねぇ『マゾッピキ』!?」 「……………………!!!!『風上』だ!二度と間違えるな!僕の二つ名は『風上』というんだ!『かぜっぴき』でも『マゾッピキ』でもない!!」 マリコルヌはギーシュの胸倉を掴んだ。 「…………この手はなんだよ」 ギーシュの声は今までに無いほど冷たかった。 「その手を離しなさい」 モンモランシーがマリコルヌに杖を向ける。 「モンモランシーさぁ……ギーシュをすっごく、すっごく信頼しているみたいだけどね……知ってるのかなぁ?二股のこと」 それを言った瞬間、ギーシュとモンモランシーに衝撃が走る。 「な!」 「なんですって?…………どういうことギーシュ………まさか………」 「ち、違う!デタラメだ!」 「名前は何ていったかな~。たしか3年生の~」 「デタラメを言うな!3年生の女性とは付き合ったことなどない!」 「じゃあ1年生かな?」 「そうだ!…………はっ!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド モンモランシーの怒りのオーラで背景がゆがんで見える。 「なるほど………マヌケは見つかったようね…………」 その怒りは全てギーシュに向けられているはずだが、マリコルヌは自身そのプレッシャーに体が震えるのを感じる。 そしてギーシュはもはや弁解する余地なしと悟ると、マリコルヌを睨みつける。 いつものマリコルヌならすでに恐ろしさのあまり縮み上がっているだろう……だが今は違う! 心の奥底から勇気が!闘志が湧いてくる!さっきまで自分は何に恐れていたのか! マリコルヌは思う。 (ギーシュ!モンモランシー!もう二度と!『風上』以外で呼ばせない!僕の名前を貴様らのそのクサレ脳みそに刻ませてやる!) ギーシュは思う。 (『マゾッピキ』め…!コイツさえいなければ!僕の『平穏』は保たれていたのに! モンモランシーもモンモランシーだ!別にケティとはまだなにもやってないってのに!) モンモランシーは思う。 (ギーシュ、おお私のギーシュ。二股なんて……でも安心して私がついているわ……これから私があなたを『教育』してあげる。 まずは友人関係からね…………バカな『かぜっぴき』にコケにされるなんて我慢なら無いでしょう?私は絶対我慢ならない!!) 「僕だ!」 「『こいつを裁くのは』」 「僕さ!」 「私よ!」 またまたTHE ENDおおおおおおおお!よっしゃああああああああ!
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348 名前:サイト争奪杯〜番外編〜[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 01 37 47 ID l0tMBAzK 才人が札を上げ・・・られなかった。 札を上げようとしたとき一陣の突風が吹き、激しい砂嵐が起こったのだ。 いったいなんだこりゃぁ・・・ 慌ててデルフリンガーを構えるとすこしづつ嵐が収まってきた。 周りが見えるようになってくると、一つの大きい影があるのに気付いた。 砂がやみ、姿がはっきりわかるようになってくるとそこには・・・ 「タ、タバサ?!」 「・・・迎えに来た」 あれ、タバサだよな?にしては何か格好が・・・あ、あれはぁぁぁぁぁ!! 才人がわが目を疑ったのも無理は無い、そこにいるのは確かにタバサだったのだが 格好が普段とは違っていたのだ・・・・・タバサはミニスカサンタとなっていた。 「え、タバサなんでここにって言うか、なにその格好・・・」 「・・・勝負・・・見てた」 どうやら学院での話を聞いていたらしく、シルフィードに乗って跡をつけてきていたようだ。先ほどまでの話をきいていたらしい。 タバサはサイトのそばまで近づくと必殺の一言を叩き込んだ。 「今日は私がぷれぜんとっ」 ご丁寧にひらがな読みである。 そ、それは男のゆめぇぇぇぇぇぇぇぇ 鼻血が出ないように抑えながら思わず叫んでいた。 「タバサ優勝ぉ〜〜〜〜〜〜!!!」 それを聞くとタバサは嬉しそうに微笑み、サイトの手を引きずっていきシルフィードに乗って飛んでいった。 一方突然の出来事にポカーンとしていたルイズだったが、はっと我に帰ると遅すぎる憤りをわめき散らした。 「・・・帰ってきたら覚えてなさいよぉぉぉ!!」 349 名前:サイト争奪杯〜番外編〜[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 01 38 28 ID l0tMBAzK 「な、なぁタバ・・・」 「シャルロット」 そういってそっぽを向いてしまった。二人きりなのにタバサといおうとしたことにへそを曲げたらしい。 「あ、ゴ、ゴメン、シャルロットそれにしても何でそんな格好どこで・・・?」 「・・・本に載ってた」 「どんな?」 「・・・異世界からの古い本に」 どこの誰だかは知らないけど素晴らしいプレゼントを有り難うっ その本はどんなものなのか読んでみたいと思いながら才人は一つの疑問が浮かんだ。 「字は?」 「読めなかったけど・・・」 「けど?」 「小包みたいなの持ってたから・・・これだと思って」 よく準備できたなぁ・・・と感心しているとタバサが才人の前に立ち上がった。 「ちょ、シャルロット危ないって」 「お兄ちゃん」 そういってタバサはクルッと短いスカートを少し翻して一回転した。 「・・・似合う?」 ど、どうしようどうしよう、喜んでくれると思って着替えてみたけど、お兄ちゃんなんかボーっとしてる・・・やっぱ変なのかなぁ・・・ タバサが全く反応しない才人を見て徐々に不安になっていく。 目に涙が浮かびそうになったとき才人がふいに立ち上がるとこっちを抱きしめてきた。 「お、お兄ちゃん?」 「最高だっ最高だよシャルロットぉ!!」 こ、こんな素晴らしいものをこの世界でみられるなんてぇぇぇぇ 才人は後ろを向いて膝を突き、天を仰いで号泣していた。 「バンザーイ!バンザーイ!!」 えっと・・・・変なスイッチ押しちゃったのかな・・・何か近づきたくない雰囲気が・・・・ でも、ま、いっか タバサは才人の前に回りこむと子供がお父さんに抱きつくように飛びついてきた。 「お兄ちゃんっ」 ・・・喜んでくれてるみたいだしっ シルフィードは才人に頬ずりして甘えているタバサを乗っけて魔法学院へと飛んでいく。 ・・・・・・人の上でラブコメするのも大概にしてほしのいね〜きゅいきゅい。 ・・・お疲れ様です。 350 名前:サイト争奪杯〜番外編〜[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 01 39 12 ID l0tMBAzK 本来の半分を本棚が占めている部屋・・・タバサの部屋に二人はいた。 いすに座ってなにやらお茶を飲んでいる。タバサは先ほどの姿のままだ。 「・・・サンタ?」 「あぁ、これは俺の世界の衣装でな、サンタクロースっていうんだよ」 へぇぇ、見ない服だと思ってたらこれお兄ちゃんの世界のだったんだぁ・・・ 「そいつがな夜になるとみんなにプレゼントを配るんだよ」 タバサは部屋についてから折角なのでと、来ていた服について色々教えて貰っていたらしい。 お兄ちゃんの世界のことだしねっ タバサは才人の世界のことが分かってくる嬉しさでずっと微笑んでいた。 「・・・と、こんな感じかな」 ・・・さっきからずっと笑ってるけど、この話ってそんなに楽しいのかな・・・ 才人は相変わらずの鈍感振りを発揮して、話を終えた。 才人がふぅっと一息ついて目の前のカップを飲み干すと、タバサがいすを引きずって隣に近づいてきた。 「どうした?シャルロット?」 「・・・プレゼント」 「ん?あぁシャルロットは今サンタさんだもんな、なんかくれるのか?」 才人が口を横に開いて笑っていると、タバサは服のボタンを一つはずした。 「プレゼントは・・・私・・・」 「え?」 才人が呆気にとられるとタバサが抱きついてきた。 「・・・好きにしていい」 こ、こんなシチュエーションが実際に有るとはぁぁぁあああああっ 沸騰した頭を抑えながら、才人はタバサを抱きしめ返した。 「い、いいの?」 「・・・うん」 そう一言だけ言うとタバサは才人にすばやく唇を合わせてきた。 「・・・おにいちゃん・・・」 二人は絡むようにベッドに倒れていった。 「ん・・・あ・・・はぁ・・・」 二人が口をついばみあうたび口の端から吐息が漏れる。 才人はタバサの口をふさいだまま、スカートをたくし上げて大事な部分へと手を伸ばしていく。 そこを布越しに触れるとくちゅっと水音がした。 「シャルロット・・・もうこんなになってるよ」 「・・・」 タバサは顔を赤らめて横を向く。そんなタバサを見て才人は、可愛いな。と思う。 そんな顔を観察するため、才人は布を押し付けまだ成熟していないクレパスをなぞっていく。 351 名前:サイト争奪杯〜番外編〜[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 01 39 55 ID l0tMBAzK くちゅっ ちゅっ ぴちゅ ぴちゃっ なぞりあげるたびにタバサの秘所からの水音が増していった。 「やあっ・・・おにいちゃん、そこ、気持ちいい・・・のぉ・・・」 タバサの顔が徐々にとろんとしたものになっていく。 才人はいったん手を離し、タバサのすでに役に立っていない薄布を剥ぎ取ると蜜壷へと口付け溢れている愛液を舐め上げた。 「・・・やっ・・・なめちゃだめ、なめちゃだめなのぉ」 「シャルロットのここ、とてもおいしいよ・・・どんどん溢れてくる」 そういって先ほどよりも更にあふれ出している蜜を力いっぱい吸い上げた。 「だめぇっおにいちゃんそこ吸っちゃ、やぁっ・・・だめぇえイっちゃ・・・イっちゃうううぅっっっ!」 腰を押し付けてビクビクッと震えると、とさっとベッドに崩れ落ちた。 才人は口の周りを拭うと、タバサの上に降りるようにして抱きかかえる。 「あは、ごめんシャルロット。ちょっとやりすぎたかな」 才人がばつが悪そうに言うとタバサはふるふると首を振った。 「・・・おにいちゃんだからべつにいい・・・でも」 そういうとタバサは少し首を上げてサイトのソコを覗き込む。 「・・・わたしだけじゃだめ」 つぶやいて足で才人を包むようにして足を開く。 「・・・おにいちゃんも」 才人はじっと見つめてくるタバサにゆっくりと頷くと、痛いくらいに張り詰めた怒張をタバサにあてがいそのままずぶずぶと埋め込んでいく。 少しづつ入れていくと、やがてタバサの最も深いところへと辿り着いた。 お兄ちゃんの・・・全部入ってる・・・ 最愛の人を受け入れることができた喜びと快感に、熱を含んだ吐息を吐いて、視界に広がっているその顔に向けて囁いた。 「・・・大丈夫・・・動いて」 そういうと才人はゆっくりとしかし大きいストロークで動き始め、少しずつテンポをあげてタバサの一番奥を小突いていく。 「・・・んっ・・・あっ・・・おくっ、奥に届いてるっ・・・」 やぁっ・・・おくっ・・・ジンジンしてるっ・・・あたま、変になっちゃいそうっ・・・0 お、おにいちゃんの・・・またっ、おおきく、なって・・・ 奥に届くたびに背中を電気のように駆け巡る快感を更に貪るように、タバサの内壁はひだを才人へと絡みつかせていく。 352 名前:サイト争奪杯〜番外編〜[sage] 投稿日:2007/01/06(土) 01 41 00 ID l0tMBAzK 才人の剛直が奥へと入り込んでいくと更に奥へと飲み込むように蠢き 入り口近くへと引き抜こうとすると別れを惜しむかのように絡み付いて離そうとしない。 そしてそれは才人をより高い限界へと当然の如く引き上げていった。 「う・・・わっ、ちょっ・・・もう、やば・・・」 気を抜いたら襲ってくる射精感に必死で耐え、才人はシャルロットを高みへと上らせるために必死で突き上げていく。 「はっ・・・くっ・・・シャル、ロット・・・もうっ」 中に詰まっている怒張がひときわ大きく膨らんでいく。 「んっやぁっああっ・・・いい・・・よっ、おにいちゃん、中に、出してっ」 「い、いくよっ・・・出、出るっ」 「私もっ、もうっだめぇ、やっあぁぁぁぁんんんんっ」 才人が腰を最も深いところへと押し付け、その白い欲望を吐き出す。 びゅっ びゅくっ びゅくっ あついの・・・たくさんはいってきてる・・・ タバサの小さい子宮が才人の迸りによって満たされていく。 奥に打ち付けられる刺激にタバサもまた絶頂へと上り詰めていった。 才人が吐き出し終わった怒張を抜くと、こぽっと収まりきらなかった精が流れ出てきた。 あは、おにいちゃんの・・・いっぱい・・・ タバサはこぼれ出たものを掬い取ると愛おしそうに弄ぶ。 才人がぼふっとタバサの隣に寝転がるとタバサの髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。 「最高のプレゼントだよ、シャルロット」 タバサは嬉しそうにはにかんで、えへへ。と笑った。 そして才人の頬に軽くキスをし、その胸板を枕にして寄りかかった。 ――――――おにいちゃん、大好きっ――――― 二人はゆっくりと眠りに落ちていった・・・・ <Ver.タバサ Fin・・・All Happy end>
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…よく考えたら、何も付き合う必要ないんじゃ…。 本の林の中で、才人はそう思っていた。 目の前には、棚から取り出した本を流し読みするタバサ。 読めているのか、と疑いたくなるようなスピードでぱらぱらとページを繰り、次の本に移る。 事の発端はこう。 『…2回も間違えた』 先週の虚無の曜日、『二人きりのときは本名(シャルロット)で呼んで』という約束を、才人が2回破った。 その罰として、才人は女子寮の屋根の上で朝から昼近くまで『抱っこ』させられていたのだが。 部屋に戻って、床に下りたタバサはみるみる不機嫌になり、その整った眉をへの字に曲げて、そう言った。 『…あんだけ抱っこしてやっただろ』 『…足りない』 むー、とふくれてタバサは言った。 才人は女の子ってのはめんどいなあ、と思いながら、まさかアッチ方面の要求してこないだろうな、と期待半分、不安半分で身構えていたのだが。 何かを思いついたように、タバサはぽん、と手を打った。 『…今度の虚無の曜日』 『…なに?』 『買い物、付き合って』 街の本屋に本を買いに行くので、付き合ってほしいというのだ。 それで済むなら安いもんだ、と才人は軽く請け負ったのだが。 『…どこ行くの?』 『どちらへ行かれるんですか?』 出かけようとするところを、部屋の主人とメイドに見つかってしまった。 休みになにしようが犬の自由だけど浮気だけは許さないんだからそこんとこ覚悟しときなさいよという視線と、 私はサイトさんのこと束縛したりしませんけどこれ以上女の子増やすつもりならそれ相応の覚悟をもって望みますよという視線を受けて、才人はほうほうのていで外へ出た。 …ほんとに、オレ最近流されやすいよな、なんか妙なものに憑かれてるんじゃなかろうか、とか考えながら、才人はタバサと一緒に街に出た。 そして、シルフィードのおかげで、街の本屋の開店直後に、本屋に着くことが出来たのだが。 …もう、昼前なんですけど…。 字の読めない才人にとって、この本の林はただの紙の束の塊に過ぎない。 しかも、その量たるや膨大なものだった。 ハルケギニアには『本の流通』というものがないらしく、本屋には本が溜め込めるだけ溜め込んであった。 しかも、索引などついていないので、目的のものを見つけるには片っ端から見ていくしかないのだ。 本屋の中にはタバサのように、端から本を手にとって読んでいる客がちらほら見える。 しかし、才人とタバサのように、連れで本を探している者はいない。 「…なあ、疲れないのか?」 才人はいいかげん疲れてきていた。ていうか退屈。 「…退屈?」 タバサは、本から目を離すことなく言う。 …正直に言っていいもんだろうか、とか少し悩んだ才人だったが、昼も近いし正直になってみることにした。 「まあ、退屈っちゃ退屈だな」 するとタバサは、手に持っていた本をぱたんと閉じると、棚に戻した。 「昼ごはんにする」 言って、すたすたと店の外に向かって歩き出した。 「あ、おい待てってばタ…」 バサ、と続けそうになる才人を、タバサが振り返って睨みつける。 才人は慌てて言葉を呑み込み、無理矢理言葉を続ける。 「…シャルロット!」 「…よろしい」 満足そうに微笑み、タバサは歩き出した。 …疲れる。 「…本はよかったのか?」 結局一冊も本を買うことなく店を出たタバサに、才人は疑問を投げかける。 人が3人も並べば肩がぶつかりそうになる通りを、タバサが先に、才人がその後ろに続き、歩いていく。 「…別にいい」 そう言って少し先を歩いていたタバサが、少しスピードを緩め、才人の右に並ぶ。 才人はタバサの態度に、何かあるのか?と周りを見渡したが、なにもない。 タバサは才人との距離を少し詰めると、不自然に左手をにぎにぎしはじめた。 …なるほど。 「こうしたいなら言えばいいんだよ」 きゅ、っと才人はタバサの手を握る。 すると、タバサの顔がみるみる赤くなった。 「…子供っぽくない?」 赤い顔のまま、才人の顔色を伺うように上目遣いでタバサは尋ねる。 …かわええ。 …い、いかん、違う道に目覚めそうだ…。 もうすでに道は踏み外しまくってるけどなー、という脳内デルフの突っ込みを無視し、才人は言った。 「そんなことないよ」 そう言って握った手に軽く力を込める。 タバサは嬉しそうに微笑んで、握り返してきた。 二人はしばらくそのまま歩き、適当な食堂に入った。 そこそこ賑わっている下品でない食堂で、席に着くと活発なウェイトレスが注文を取りにきた。 「はいいらっしゃーい!メニューこれねー。とりあえずなんか飲む?」 手渡されたメニューの最初のページにはびっしり何かが書き込んであるが、才人にはさっぱりだ。 「私は氷水。サイトは?」 「んー、あればミルクで」 「じゃあミルク」 二人のやり取りを見ていたウェイトレスが、当然の疑問をぶつけてきた。 「何?お兄さんが注文するんじゃないの?」 「あ、オレ字読めなくてさ」 「お兄さんなのに情けないわねー!妹に字ぃ読んでもらってるの?」 呆れたように言って、ウェイトレスは紙に注文を書き込むと、厨房の方へ行ってしまった。 「はは、兄妹だってさ」 才人は何の気なしにタバサにそう言う。 …返事がない。 見ると、タバサは物凄く不機嫌そうな顔をしていた。 「…妹…」 呟いてさらに不機嫌そうな顔になる。 あ、なるほど。 でもどう見ても、二人を恋人同士に見るほうに無理がある。 才人は、タバサの機嫌を取るようににこやかに話しかける。 「機嫌直せよ」 が、タバサの眉間の皺は納まらない。 はいおまたせー、と先ほどのウェイトレスが飲み物を運んでくる。 タバサはそれを受け取ると、一気に飲み干した。 …荒れてんなー。 飲み干すとタバサは、メニューを広げてウェイトレスに言った。 「ここからここまで全部」 ちょ、まてよ、と止める才人の声も届かず、タバサは続ける。 「…あと氷水大ジョッキで」 ちょっとした宴会くらいは開けるんじゃないか、という量の料理を、タバサはほとんど一人で平らげた。 才人もいくらかつまんだが、タバサの食べっぷりを見ているだけでなんだか胸がいっぱいだ。 タバサは最後のパスタをずぞぞぞぞっ、とすすり終えると、残っていた氷水のジョッキをぐびぐびぐびぷはー、と飲み込んで空にした。 「…完食おめでとう」 思わずそう呟く才人。 しかしタバサはまだ不満そうにしている。 タバサはどこからともなくメニューを取り出すと、呆れて見ているウェイトレスに向かってこう言った。 「あと、このプディング。ホールで」 その食堂の大食い記録をおそらく塗り替えたであろうタバサは、それでも不満そうな顔で、才人の横を歩いていた。 よっぽど兄妹呼ばわりされたのが気に入らないらしい。 …いい加減機嫌直してくんないかなー、と隣のタバサを見ると、その小さな唇の横に、プディングの食べかすがついていた。 「…こんなん残してるから妹呼ばわりされるんだよ」 そう言って才人はそのかけらを指でつまみ、自分の口に放り込む。 すると、タバサの眉間の皺がみるみるうちに解けていく。 …もう、妹でもいい。 タバサは才人の腕にぎゅー、っと抱きつくと、にっこり笑って言った。 「お兄ちゃん♪」 「頼むからソレだけはヤメて…」 その後、結局本屋には寄らず、そのまま学院に帰ることになった。 タバサはシルフィードの上でも嬉しそうに才人の横に寄り添い、始終にこにこしている。 「…いいのかよ、結局本買わなかったじゃないか」 それどころか、街で使ったお金といえば、タバサの食べた昼代のみ。 買い物、と言うわりには何も買っていない。 「…いい」 にこにこしながら、才人の横でタバサは続ける。 「サイトとお出かけしたかった」 く、この、かわいーこと言ってくれんじゃねえか、とか思いながら、しょうがねえ肩くらい抱いてやるか、と才人はタバサの肩を抱く。 タバサは一瞬ぴくん、と身体を強張らせたが、すぐに緊張を解くと、才人を見上げて目を閉じて唇を突き出して見せた。 …あの、これはそのアレですか、「キスして」って解釈でよろしんでしょうか。 才人はその小さな花びらのような唇に吸い寄せられるように自らの唇を寄せていく。 そして二人は、風竜の上で、口付けを交わした。 二人が帰ると、女子寮の入り口でルイズが待ち構えていた。 「いやあのだな!?オレはタバサに頼まれて買い物に付き合ってただけで!」 「へえ?その割にはなにも荷物持ってないじゃない。何を買ってきたのかしら?水色の髪の女の子?」 作り笑顔がものすごくコワイ。 「た、タバサからもなんとか言ってやってくれよ!」 慌ててタバサにフォローを頼む才人だが、タバサはとんでもない事を言ってのけた。 「…キスした」 びきぴっ。 空気が瞬時に凍りつき、その空気に亀裂が入るのが見えた。 「…い・ぬ?」 「ふぁ、ふぁい」 作り笑顔のまま、ルイズの顔がドス黒く染まっていく。 怒りのオーラが周囲を侵食し、まるで結界のように空間を閉じていく。 これが虚無の固有結界…っ!! 「浮気は許さないって言ったわよねえ…?」 「…ひ!」 そんな二人のやり取りを気にも留めてない様子で、タバサはルイズの横を通り抜けて女子寮に入ろうとする。 「ちょっと待ちなさい」 ルイズがそんなタバサを呼び止める。 「アンタも、人の使い魔に手出しといて、挨拶の一つもなし?」 しかしタバサは動じない。 「…サイトを不幸にするなら、私が貰う」 二人の視線の間に、火花が散る。 ぎぎぎぎぎ、とルイズの首がぎこちなく回り、作り笑いを才人に向ける。 「…サイト?私といると幸せよね?」 今は不幸ってーか怖いです。 「…幸せを強要しないで」 タバサはそんなルイズの言葉尻を捉える。 「今は私とこの犬が話ししてるの」 「犬なら話さない」 二人はんぎぎぎぎぎぎぎ、と視線をぶつけ合うと、一瞬で間合いを離し、お互いに杖を構えた。 「お、おいこら二人とも魔法はまずいって!」 結局、ハルケギニアの空を高々と舞ったのは、雪風と虚無の魔法でボロ切れ同然になった才人であった。 〜fin
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「…何も問題はありません。健康そのものです」 「本当か?本当なのか!?」 カトレアを診断した主治医に、ヴァリエール公が詰め寄る。 「はい…薬を使った形跡すら感じられません」 力なく首を振る主治医の姿に、がっくりと肩を落とす公爵。 「あらあら、心配しなくても私はほら、こんな事も出来るようになりましたわ!」 グオン 「「座ったままの姿勢でジャンプを!?」」 育郎の治療を受けてすぐに、カトレアはルイズが止めるのも聞かずに、 その健康体がどれ程のものかを試しだした。 「ブラボー!おお、ブラボー!」と叫びながら突如浮き上がったり、 「かけよトロンベ!」と叫びながら自分の愛馬で屋敷中を走り回ったり、 その他諸々、その様はミス・アンチェインとでも呼びたくなるほどだった。 「何故…こうなってしまったのだ?」 「病が裏返ったとしか…」 「…なんだそれは?」 「今まで掛かっていた負荷がなくなり、急激に身体が活性化したのと合わさって」 「まあ…何はともあれ、カトレアの身体は治ったのです。 この際些細な事は気にしないでおきましょう」 溜息をつきつつ、二人の背後にいたヴァリエール公爵夫人がつげる。 「些細な事…か?」 ヴァリエール公の呟きを無視して、夫人はカトレアに向き直る。 「カトレア、貴方も元気になって嬉しいのはわかりますが、貴族たる者が そのようにはしゃぐなど…みっともないとは思わないのですか?」 カトレアは手を口に当て、あらあらと言いながら頭を下げる。 「ごめんなさいお母様。身体があんまりにも軽くなったものですから、 心まで軽くなったみたいで。不思議ですわね」 そう言ってケラケラと笑うカトレアに、つい再び溜息がでてしまう。 「あ…あの、お父様、ちいねえさまは?」 声のほうを見ると、部屋の外で待っているよう言われたルイズが、カトレアが 心配だったのだろう、堪えきれずに部屋に入ってきていた。 「こら、ルイズ!待ってなさいと言われたでしょう」 同じように廊下で待っていたエレオノールが、ルイズを連れ出そうとするが、 それをヴァリエール公が制する。 「かまわん、エレオノール。ルイズ、心配しなくとも異常は見当たらんそうだ」 「あれで…ですか?」 エレオノールが見ている方に視線を向けると、カトレアが部屋に追いてあった ワインをグラスに注いでいた。ただコルクぬきが見つからなかったのか、ビンの 底に指を刺して穴を開け、そこから注いでいる。 「カトレア!」 その時公爵夫人の凛とした声が部屋に響き、部屋にいる全員の身が硬くなった。 「…なんでしょう?」 部屋の中にいる人間全員が、緊張した面持ちでカトレアと公爵夫人を見る。 「…行儀が悪いですよ」 「それもそうですね」 「あー…なんだ、よくぞ我が娘カトレアを…その…治療してくれた。感謝する」 口ごもりながらも、ヴァリエール公が育郎に感謝の言葉をかける。 「は、はぁ…」 対する育郎は、どこかすまなさそうな顔をしている。 「ほら、もっと堂々としてなさいよ。治ったんだからいいんじゃない。 ルイズも、ほら。だいたいこういう事言うのは、貴女の役割でしょ?」 キュルケが育郎と、いろいろと疲れた表情をするルイズに声をかける。 「どう見ても病気には見えない」 「うん…まあ、そうなんだけどね」 タバサの言葉に頷くが、やはりどこか釈然としない表情をするルイズ。 「ああ、俺様も長い事生きてるけど、あれほどの「アンタは黙ってなさい!」 …わーったよ」 「その…ごめん」 「い、いいのよイクロー。あんたが謝らなくても」 「何をコソコソと話しているのかな!?」 「い、いえ。なんでもありませんわお父さま!」 焦る娘の様子に今日16度目になる溜息をつき、とにかく今回の事はこれで 良しとしよう。そう自分を無理やり納得させる。 「ルイズ、とにかく今日は友人といっしょにゆっくりとしていきなさい。 久しぶりに家族がそろったのだ。カトレア達も積もる話もある事だろう」 「えっとお父様…今日は日帰りのつもりだったので、休みの届けをだしては」 ルイズの言葉に笑いながら答える公爵。 「なに、一日授業を休むぐらいどうという事は…」 背後からの凄まじいプレッシャーに、言葉が止まるヴァリエール公。 「あなた…」 そのプレッシャーの発生源。己の妻の声に、ヴァリエール公の背筋が凍る。 「あるな!うむ!やはり無断で授業を休むなど言語道断!」 「あら…久しぶりにルイズと一緒に寝ようかと思ってましたのに」 娘の不満げな声に、溜息をつきながら公爵夫人が口を開く。 「…夕食ぐらいはとって行きなさい。エレオノール、カトレア、食事の準備が 整うまでルイズと一緒にいていやりなさい」 「わかりましたわ、お母様」 「は、はぁ…母様がそう言うなら。ほら、貴方達こっちにきなさい」 ルイズ達とともに、部屋を出ようとしたカトレアが、ふと何かに気付いた様子で ヴァリエール公の方に振り向く。 「そうですわ!」 「な、なんだカトレア?」 少し驚いた様子の公爵に、いつものような無邪気な笑顔でカトレアは告げた。 「お友達も学校があるからしかたないとして、あの使い魔さんだけでも 泊めていってはどうかしら?」 「は?」 「ルイズの話も聞きたいし、それに私を治してくれたお礼もしたいですし」 「お、お礼…ど、どういう意味だカトレア!?」 「そんなに凄かったの!?」 「ちょっと、なにやってんのよキュルケ!?」 突如現れたキュルケに続いて、ルイズと呆れた顔をしたエレオノールが 再び部屋に入ってくる。 「貴方達なにやってるのよ…お父様、どうかしたのですか?」 「あ、うむ。カトレアがそこの使い魔だけでも泊めてはどうかと言ってな。 まったくどういうつもりなのか…」 「へ?イクローを?なんで?」 「だって貴女が魔法学院でなにをしているか、使い魔さんに話を聞きたいし」 「凄かったのね…」 じゅるり 「キュルケ?」 再び溜息をついて、何か言ってやりなさいとエレオノールを見るヴァリエール公。 「……別に、かまわないでしょう」 「エレオノール、お前まで!?カリーヌ!」 最後の頼みと、妻に視線を向ける。 「カトレアを治したのは事実です。 平民とはいえ、それなりの待遇でもてなすべきでは?」 「わかった…ルイズ、お前もそれでいいかい?」 「あ、はい」 どうにも釈然としないといった表情のルイズだが、納得できないのは公爵自身 も同じである。カトレアはともかくとして、何故エレオノールまで? その時、公爵の頭にある考えが浮かんだ。 「まさか…いや、しかし…」 「どうかなされたのですか、あなた?」 「い、いや…なんでもない」
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前ページ次ページゼロの英雄 それは無情なまでに蒼く晴れ渡った、春の日の午後のことだった。 吸い込まれそうな青空の下で行われているのは、春の使い魔召喚儀式。 言うまでもなくメイジのこれからの人生を大きく左右する重大なイベントのただなかで、 私はもう何度目になるか分からないサモン・サーヴァントの呪文を唱えていた。 「我が呼びかけに応えし、使い魔を召喚せよ!」 ぼかん また爆発した。 何度やっても、これだ。 どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、帰ってくるのは人を馬鹿にしたような爆発だけ。 お前はコモンマジックすら使えない落ち零れだと、突きつける無慈悲な宣告だけだった。 周りのギャラリーが囃し立てるなか、『ゼロ』でしかない自分に悔しさで一杯になる。 それでもくじけてなんてやらないんだから! 「召喚せよ!」 また一振り、だがやはりボンと音を立てて爆発が響くばかり。 唇を血が出るほど噛み締めながら、それでも私は諦めず何度も何度も繰り返す。 一度で駄目なら二度、二度で駄目なら三度。 渾身の精神力を込めて、周りであざ笑う奴らを見返せるような使い魔に向かって呼びかける。 だが帰ってくるのはやはり爆発――それでもどうしても私は諦められなかった。 諦めると言うことは自分自身を ゼロ だと認めること。 貴族に相応しくない存在だと認めること。 そんなことは絶対に出来ない。 出来るはずが、ない…… ―――だって、魔法を使えない貴族である私を愛してくれる人なんて絶対にいない。 いやそもそも、魔法が使えなければ貴族でさえないんだから…… けれども絶望はいつだってすぐにやってくる。 呆れ顔のコルベール先生にこれで最後にしなさいと言われ、豆だらけの腕で渾身の力を籠めて杖を一振り。 それも何時ものようにただの爆発となって消える…… 「残念でしたねド・ヴァリエール。それでも貴女ならきっといつか……」 白々しい型どおりの慰めの言葉、それが一層私の惨めさに拍車を掛けた。 周囲の人間が ゼロ だ、やはり ゼロ だと囃し立てる。 それが悔しかった。 それが悲しかった。 その罵声は私だけではなく私が背負ったものにまで馬鹿にする言葉。 けれど魔法が使えない私は、満足に反論することさえ出来ないのだ。 そんなのはふざけている。 「私は!」 心の中に真っ黒な塊が炎となって燃え上げる、血が沁みた杖を力任せに握る。 「 ゼロ なんかじゃ!」 ヤケクソとばかりに杖を振った。 世界全てが爆発してしまえとばかりに、残った力全てを込めて。 「ない!」 詠唱も、ルーンも、まるで滅茶苦茶な言葉を叩きつける。 晴れ渡った空へ向かって、その向こうにいる残酷な「運命」と言うものを定めてた誰かに向かって。 でもきっとこの時の私は、そんな小難しいことなんて考えていなかったように思う。 どうせ爆発させることしか出来ないのなら、いっそすべて吹き飛んでしまえ。 そんな風に思っていたように思うのだ。 そしてやっぱり私はいつも通り特大の爆発を生み出し…… もうもうと立ち上がる爆煙の向こうから、私の絶望を切り裂くように『彼』は現れた。 この時のことを私は絶対に忘れないだろう。 絶対に、死んだって忘れるもんか。 もうもうとあがる土煙の向こうに見え隠れするのは、見上げるような巨獣の体躯だった。 暫く呆然として、ゆっくりと頭のなかに理解が追いついてくると、心の中一杯に歓喜が満ち溢れた。 成功したのだ、やっとやっと成功することが出来たのだ。 周囲のざわめきも耳に入らず、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ルイズはその巨体に向けて駆け出した。 近くで見ると一段と大きい夜を押し込めたような漆黒の体躯。 血で染めたような深紅の瞳。 額に生えた山羊のような雄雄しい角。 それは巨大な竜だった、ただその存在だけで他の獣を圧倒する魔獣の王であった。 タバサと呼ばれた少女が召喚した風竜より一回りも二回りも大きい、大当たりだ、やはり自分にはこんな神聖で強大で美しい使い魔こそが相応しかったのだ。 “まさか、そんな、何かの間違いだ” “ゼロのルイズがドラゴンだなんて” “インチキだ! こんなことあるはずが無い” 周りの者たちの言葉さえ今のルイズには自分を祝福するファンファーレのように聞こえた、こんな使い魔を召喚したのだもう“ゼロ”などとは言わせない…… そんな思考もろともルイズの体は凍り付いた。 幾つもの弾痕が刻まれ引き裂かれた翼。 今にも途絶えそうな弱々しい吐息。 体中に刻まれた幾多の傷から流れ出る血潮。 それは幻獣・魔獣の跋扈するこのハルケギニアに於いてすら恐らく比するモノなき魔獣の王であった。 『魔王竜』 かつてハルケギニアから遠く離れた世界で、「暴虐」と「理不尽」とそして「絶対の死」の代名詞として使われた存在だ。 その口から数千度にも及ぶ炎を吐き、角の一振りで落雷にも匹敵する稲妻を降らせ、その巨体でおおよそ地上に存在するどのような鳥よりも速く空を舞い、そして人語を解し、しかし好んで人を食らう。 勿論ルイズはそのようなことを知らない、だがその秘めたる力の一端はただ一目見るだけ誰もが理解する。 ただ其処にあるだけでその肉体そのものが他者を威圧するのだ、それは見るものの意思に関わりが無い。 大いなる存在を前にして人がひれ伏さずには居られないように、理由はないのかもしれない。 ともかくそのような存在を使い魔として呼び出したとしては、とんでもない程のメイジになる可能性があるに違いない――普通はそう考える。 メイジの実力を見るにはその使い魔を見よ、と言う格言がある。それは使い魔の力がすなわちそれを御すことの出来る主の実力であるからだ。 ――ならば果たして、もしその呼び出したドラゴンが死にかけていたとするならば? 煙が晴れ、やがて周囲の者たちも状況を理解した。 ルイズが呼び出した黒いドラゴン、それはもう虫の息であとどれほども経たないうちに息を引き取るであろうことに。 だがそうと理解しても彼らは何も言わなかった、言えなかった。 違いない、娯楽程度に家柄だけが優れた劣等生を小馬鹿にする程度の気持ちでルイズのことを“ゼロ”と呼んでいたような連中には、目の前の死に掛けた巨獣の姿は刺激が強すぎた。 どうすればいいのか分からないまま立ち尽くす彼ら、そんな彼らを尻目に真っ先に動いたのはやはり血の匂いを一番嗅ぎ慣れた人物に他ならない。 「まだ息がある、手当てをすれば助かるかもしれません」 そう言ってコルベールは比較的落ち着いた生徒達に指示を出すと、当直の水のメイジを呼びに渾身の“フライ”で舞い上がる、彼が去り後に残されたのは呆然と立ち尽くすルイズとそのクラスメイトたち。 「ドッ、ドラゴンを召喚した時には驚いたけど、そんな死にかけを呼び出してどうするつもりなんだ?」 クラスメイトのなかの一人が突然そんな風に声を上げたのは、痛いくらいに突き刺さる沈黙に耐えられなかったから。 彼とてルイズのことをクラスメイトの一人として気に掛けていた、なぜなら彼女だけが彼の言葉にまともに反応を返してくれる同年代の女の子だからだ。 だからこんな風に憎まれ口を叩いてしまう、その後に返ってくるムキになった否定の言葉が聞きたくて。 ――でも彼にだってわかっていたのだ、いくらなんでも今だけはなんとかして励ましてやらねばならないと。 それでも何を言えば分からなくて、なんとか何かを言おうとして……結局口から出てきたのは何時も通りのそんな酷い言葉だけ。 「やっぱり“ゼロ”じゃないか!」 その言葉にルイズが振り向いた。 僅かに俯いているせいで長い桃色のブロンドが影となってその表情は伺えない。 果たしてルイズはどんな顔をしているのか? 自分であれほどのことを言っておいて彼にはそれがたまらなく恐ろしかった。 だが次のルイズの行動はあまりにも周囲の予想を裏切っていた。 「お願い、します」 頭を下げたのだ。 ルイズが、まるで体中がプライドで出来ているようなあの誇り高いヴァリエールの娘が…… 眼を丸くする周囲をよそにルイズはなおも言い募る。 「私の使い魔を、助け――っ! 助けて、く、ください」 その言葉がたどたどしいのは血が滴り落ちるほど唇を強く噛み締めているせい。 ルイズは、死にたくなるほど屈辱に耐えながら頭を下げたのだ。 目の前の大切なものを守るために。 ○月△日 同級生たちに借金してまで水の秘薬を買い漁った、あの日から一睡もせずに看病を続けている。 それでもまだ私の使い魔は目を覚まさない。 コルベール先生に、覚悟だけはしておきなさいと言われた。 嫌だ、せっかくこの子は私の呼びかけに応えてくれたのに。 こんな傷だらけになりながらも ゼロ の呼び声に応えてくれたのに。 こんなところでお別れなんて絶対に嫌だった。 元気になったらあれもしてあげよう、これもしてあげよう、そんなことばかり頭をよぎる。 今更他の使い魔なんて呼ぶ気になれない、絶対助けるんだって決意の証。 その唇にそっと口づけ…… 胸に走る痛みにスピノザは目を覚ました。 ぼんやりとする頭で周囲を見回すと、見慣れない桃色の髪の少女が自分に取りすがって泣いていた。 状況が分からず、スピノザはおたおたする。 確か、自分はバートラントの戦車部隊からエチカ達を守って死んだ筈ではなかったか? 何故この場所にいるのか、目の前の少女は誰なのか、とりあえず手っ取り早く目の前の少女に聞いてみることにした。 「ええと、ごめん君は誰かな?」 少女の泣き声が一層激しくなる、スピノザの困惑が一層激しくなる。 少女は震える声で「馬鹿馬鹿っ……」とか「こんなにご主人様を心配させて……」とか言っていたがやがて自分の名前を名乗った。 ハルケゲニア、トリステインが貴族ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと。 泣きじゃくり、自分の体に取りすがるその姿はどこかエチカに似ているな。 スピノザはそんなな風に思った。 ○月□日 呼び出したドラゴンが元気になった、しかもドラゴンは韻竜だった! 喜ぶ私に向かってドラゴンは戦車部隊がどうの、エチカはどうなっただの聞いてきた? 何それ? と言うか私がどれだけ心配したと思ってるの? この馬鹿竜! 呆気に取られる私を前にドラゴンはちょっと周辺を見てくると言い置いて空を飛んでいった。 ちょっと!? まだ傷が治ったばかりなのに何無茶なことやってるのよ!? もう、帰ってきたらご飯抜きなんだからね! で、でも「ご主人様」って呼ぶなら特別にお父様にお願いして霜降りのロマリア牛を取り寄せてあげてもいいかも…… 見覚えのない街と、見知った場所のない地形。 何より見上げる空に浮かぶ月が二つ。 それが何よりも雄弁にこの世界が今まで居た世界と違うことを物語っていた。 使い魔をやることは問題はない、ルイズが召喚してくれなかったらおそらく自分はあの場でで息絶えていただろう。 どうせ長くても百年だ、あまりにも長い寿命を持つ竜からすればちょっとした午睡程度の時間でしかない。 それに何より竜である自分を恐れることなく接してくれる相手はとても貴重だったから。 ――しかしながら心配ごとが一つ。 「エチカは大丈夫、かな……」 スピノザの心中に沸き上がるその気持ち、どこまでも闊達で優しくてそして何よりもスピノザのことを求めてくれた少女のこと。 スピノザを恐れることなく付き合ってくれた、勇者の代理人。 アタラクシアは大丈夫だろう、なんだかんだ言って彼女は強い。きっと自分の死を受け入れて生きていくことが出来る。 だが自分は傷だらけの状態の召喚されたと聞いた。 それならば、意識が途切れる寸前まで自分に取りすがって泣いていたエチカはきっと物凄く心配していると思うのだ。 あの優しい優しい金髪の娘は…… スピノザの心に郷愁が過ぎる、二人で会って他愛ない話をした日々が胸を掻き乱す。 彼女にもう一度会いたかった、会ってまた他愛ない話をしたかった。 「けど、多分無理なんだろうな……」 最強の魔竜は、ただ一人哀しく月に吠えた。 元の世界に残してきた、大切な友人のことを想って。 ○月◇日 ドラゴンの名前はスピノザって言うらしい。 種別は魔王竜? 魔王竜って何よ? って聞き返したら変な顔をして喜んでた。 やっぱり変な奴だ。 とりあえずご主人様との壁を教えるために貧相な餌を出したらつまみにちょうどいいって言われた。 え、なに? 生でも気にしない? ちょっと、あんた待ちなさいよご主人様を!? ひぃぃぃぃぃ!? なま暖かい舌がべろんって…… 「やりすぎたかな……」 気を失ったルイズを前にしてスピノザはぽりぽりと頭を掻いた。 冗談のつもりだったのだが、思ったより彼のご主人様は気が弱いらしい。 もっとも腕ほどもありそうな牙を突きつけられ、丸太ほどもある蜥蜴のようなざらついた舌で舐められることに耐えられる人間は決して多くないだろうが。 さてどうしようかと、とルイズを抱えてうろうろしているといきなり話しかけられた。 「きゅいきゅい、お仲間なのねー、いっぱいお話できるのねー」 「あ、どうも。こんにちは」 自分に話しかけてきた蒼いドラゴンは背中から一人の人影を下ろすと、嬉しそうに上空を旋回する。 蒼いドラゴンの主は無表情なその顔を僅かに歪めると、仕方なしと言った感じで自己紹介した。 「タバサ、この子はシルフィ」 「きゅいきゅい」 タバサの話によると仲間を見つけたと思ったシルフィが浮かれて思わず話しかけてしまったのだと言う。 「あなたも韻竜だとは……あなたの故郷ではともかくこのあたりでは韻竜は稀少」 「きゅいきゅい、バレたら面倒なことになるってお姉さまはシルフィに全然喋らせてくれないの! シルフィ欲求不満なのね!」 タバサははしゃぐシルフィードの頭をこつんと杖で一回小突くと、浅い溜息を一つ吐いた。 「とにかく無駄なトラブルを避けたいなら注意すべき――それと、もしよければ時々でいいのでこの子の話相手になってあげて欲しい!」 「きゅい!ほんとお姉さま、シルフィお話していいの!」 タバサはもう一度こつんとシルフィの頭を叩く。 「毎日は駄目……ばれない様に、ときどき……」 タバサは一度会釈すると、膨れっ面のシルフィードと共に去っていった。 その背中に一言「ありがとう」と言い、ふと、スピノザは腕を組んで考える。 「けどドラゴンって普通話せるものだと思うんだけどなぁ……」 暫し考えて、そしてポンと手を叩く。 「そっか、気がつかなかったけど、ルイズちゃんたちの国の言葉を無意識で使ってたんだ」 長い間ずっと一人で暮らしてきた変な竜の思いつきは、やっぱり何処かズレていた。 ×月○日 スピノザが自分はあまり喋らないほうがいいと言ってきた。 タバサから忠告されたらしい、そりゃそうだ韻竜だって知られたらえらいことになる。 けどさんざんサラマンダーのことを自慢してくるキュルケに対して自制心を発揮させるのは正直辛かった。 頑張った自分にご褒美をあげたい。 とりあえずスピノザに相応しいご主人様になるために頑張ろうと思った、いつまでも ゼロ のままじゃいられない――と頑張ろうとした矢先に教室が吹っ飛んだ。 気合を入れすぎたせいか机や黒板はおろか、壁や窓まで全部跡形もなし。 クラスメイトから『グラウンドゼロ』の二つ名を賜る――って、嬉しくもなんともないわよこんなもの! なによ、いつもみたいにちょっと失敗しただけじゃないの……私だって好きに失敗してるわけじゃない、のに。 落ち込んでいたら励まされた、僕だって落ち零れの魔王竜だ? うるさいうるさいうるさい! それって私も落ち零れってことじゃないの! ただでさえムシャクシャしているのに食堂の一件以来ギーシュが突っかかってきた、せっかく気を利かせて香水を拾ってやったのに酷い奴だ。 ゼロ だなんだと言われても放っておけばいい、そう思ったけれど、ただ一つだけ許せない悪口があった。 「あんまりにも駄目だから、使い魔に見限られたんじゃないのかい?」 ――うるさい! 「僕とヴェルダンテは決して断ち切ることは出来ない固い絆で結ばれているのさ、君とは違ってね」 ――うるさいうるさい! 「そもそも、『ゼロ』のルイズが召喚するような使い魔なんてろくな……」 ――うるさいうるさいうるさい! 「決闘よ!」 気づけば、私はそう叫んでしまっていた。 「きゅいきゅい、大変なのねー」 自家製のカップでシエスタに淹れて貰った紅茶を楽しんでいたスピノザの元に、シルフィが血相を変えて飛び込んできたのはその日の午後のことだった。 慌ててすっ飛んでいくと、そこには七体のワルキューレに囲まれながら杖を持つルイズの姿。 爪の一振りで襲い掛かるワルキューレからルイズを救った後、スピノザはギーシュに頭を下げた。 「悪いけど、急用を思い出したから!」 ぎゃーぎゃー喚く主人を抱えると、呆気に取られるギャラリーを残し、スピノザはルイズを抱きかかえて逃げだした。 再勝負を一週間後に控える使い魔品評会に約して。 ウインドブレイクのような衝撃波を残し、風のような速さで飛び去っていく。 呆れるキュルケ、呆れるタバサ、呆れるギャラリー。 そんななかで初恋の微熱が燃え上がっちゃったのが一匹。 「きゅいきゅい、スピノザさますっごく強いのねー」 結果から言えば、スピノザが一番苦労したのは。 懐いてくる幼竜の相手と、愚図る主人を宥めることだった。 ×月△日 学院に土くれのフーケが盗みに入ったらしい。 もっとも私達は使い魔品評会に向けての特訓で山籠もりしていたから詳しくは知らないのだが。 しかし先生達は何をしていたんだろう? ミス・ロングビルがフーケの居場所を見つけてきたと言うのに一人も追撃隊に手を挙げずみすみすフーケを取り逃がすなんて。 私がいたなら絶対フーケを捕縛隊に志願したのに、悔しい。 『どらごん殺し』の秘宝が盗まれたとか。 そして山籠もりして分かった、スピノザは凄い奴だ。 もっとも平和主義者だから絶対に戦いの為にその力を使わないらしい。 なんて無駄な……と思ったけど私は文句は言わなかった。 それがスピノザの誇りだと分かったから、優しい魔竜になりたいとスピノザは言った。 ところでエチカって誰よ? ――ぎゃーぎゃー騒いでいたら剣の稽古に来たとか言うメイドに見つかった。 特訓は酸鼻を極めた。 主にルイズの吐瀉物的な意味で。 「次、いくよー」 「ば、ばっちこーい」 スピノザが大地を駆ける、ぐんぐんあがるスピードにルイズ悲鳴をあげる。 鞍に跨りながら必死で手綱を握る、滑空のために加速しているだけだと言うのに今にも吹き飛ばされてしまいそう。 炎の吐息、雷の乱舞、雷の隠れ蓑、色々検証した結果優勝を狙うにはライバルであるシルフィの飛翔に打ち勝つのが最良であると判断した。 そしてスピノザはそれに勝てる飛翔が出来る、二人はそう判断した。 ついでにシルフィも、あれにはさすがに勝てないきゅいきゅいと白旗を振った。 だが使い魔品評会は使い魔と主人が一組になって行う競技によって決する、如何にスピノザが速く飛べてもルイズがそれに耐えられなければ意味がない。 そのためにこの一流の竜騎士〈ドラゴンライダー〉もかくやと言う特訓法が生まれた。 要はひたすらルイズがスピノザの速度に慣れ、それに耐えられるようにすると言う訓練である。 やることは簡単だ、気を失うまでスピノザの背で耐えるだけ。 最初はゆっくり、そして次第に速度を上げていき、やがては最高速度に。 レビテーションさえ使えないルイズは振り落とされれば命はない、それでもルイズは今まで体験したことないほどの酔いと疲労によく耐えた。 だがルイズの必死の努力に関わらずサイレントにより風防を施したタバサ&シルフィード組のほうがまだ速かった。 落ち込むルイズにスピノザは言った。 魔法には、魔法で対抗だと。 ジョゼフの手記-1 ○月×日 弟を謀殺し、玉座に着いてもこの胸の虚無は埋まらなかった。 だからゲームに没頭した、より強い相手を求め、戦い、そして勝利する。 ただ次の手をどうするべきか考えている間だけは、胸のうちの空虚を忘れられた。 だがそんなこといつまでも続けられる訳はない、私にはこう言う方面の才能はあったのかすぐ周囲に私と対等に指せる相手はいなくなった。 空虚だ、どこまでも空虚だった。 胸に開いた風穴は何時になっても埋まらず、吹き抜ける雪風が心を冷やしていく。 やがて何も感じなくなった。 望むのはただ対等な相手、私が私として戦うことの出来る相手だった。 それが現れるまで暇さえ潰せればそれでいい…… そのためオルレアン公派の者達を泳がせる、シャルルの娘、可愛い姪がいずれこの胸に懐剣を突きつけてくれることを夢見て地獄のような任務に送り込む。 それでも胸のうちに燻った燃え残りの炎は、ガリアの凍てついた冬のように冷たく私を燃やし続ける。 ――嗚呼、シャルルよ。お前は何故あの程度の刺客に殺されてしまったのか。 そんなある日、姪が使い魔を召喚したとの知らせが入ってきた。 姪が呼び出したのは鱗が蒼く煌めく風竜だと言う、さすが我が自慢の弟の娘だと一人笑った。 そうなると私からはいかな使い魔がでてくるのか? 興味が湧き過去何度も失敗したサモン・サーヴァントを詠唱してみた。 今度は一発で成功した。 出てきた使い魔を見て、私は爆笑した。 奇妙な服装をした平民の少年だったのである、平民程度がこの無能王ジョゼフには相応しい使い魔と言うことか。 そう思った私はその少年にコントラクトサーヴァントを行う。 以前適当な野生のドラゴンで試した時は失敗したから、今度は失敗しないようにねっとりじっくりと、舌まで入れて念入りに。 「な、何すんだ、おっさん!? うおぇぇぇぇぇえええ!?」 少年が、ゲロを吐いた。 ――王家の者の口づけをなんだと思っているのか、この少年は。 「お、おお、お父さま!?」 娘に見られた、凄く気まずい…… しかし顔を真っ赤にして走り去っていく娘の姿は存外に可愛いものだ。 そう思って笑っていると、配下の者に見られてしまった。 気まずい、すごく気まずい。 ごまかす為に少年の左手に刻まれたルーンが見たことのないものだったので、配下のものに調べさせることにした。 「あれがジョゼフの召喚した……」 「まさか本当に平民を……」 耳の端を掠める影口にサイトは眉を顰めた。 普段はおちゃらけているものの、或る程度は心根の真っ直ぐな少年である。 さんざん普段は媚びを売っておいて、見えないところで陰口を叩くと言う人間には我慢がならなかった。 「へぇ、あんたが父上の召喚した平民かい」 突然呼ばれて振り向いたサイト。 そこにはご立派なおでこがあった。 「へぇ……」 ご立派なおでこはサイトをじろじろと眺める、それはもう吐息の掛かりそうな距離である。 いくら相手がご立派なおでこといえど、年頃の女の子にこれほど距離を詰められたことのないサイトは思わず赤面した。 「やっぱりただの平民じゃないか! 父上も大したことないね!」 「へ?」 ご立派なおでこは「見てらっしゃい父上やガーゴイルより凄い使い魔を召喚してやるから!」と言いながらのしのしと王族とは思えない足取りで去っていった。 サイトは途方に暮れた。 その鼻先に残り甘い石鹸の匂い。 サイトは知らない。 彼に会う前にイザベラ様がいつもより念入りに体を洗っていたことを。 わざわざ偶然を装うために、二時間もサイトを探してグラン・トロワの宮殿をうろついていたこと。 ――このイザベラ様、平民に舐められるのは我慢できない。 だがしかしまだ見ぬ相手を想像して胸を高鳴らせたり、体を磨いたり、とっておきの香水を付けてみたり、挙句相手を待ち伏せたり。 その行動が周囲の人間にどう思われているかなど、案の定「自分に魔法の才能がないから従姉妹と比べられるんだ!」 と言うイザベラ様には全然気が付いていなかった。 数日後、ガリアの宮殿に広まる噂は「無能王が平民を召喚した」「無能王は両杖使い」から 「わがまま姫が略奪愛をしようとしている」に変わったのは、果たして幸か不幸か。 ○月△日 少年の手の刻まれたルーンは伝説のガンダールヴのルーンだった。 と言うことは、私は虚無の担い手と言うことになる。 ははー、そんなまさかと思って土のルビーと秘宝の香炉使ってみたら反応しやがったよコンチクショウ。 なんでもっと早く確かめなかったのか…… 「ははー、しょうがないだろ兄さん所詮兄さんなんだからさ」 頭のなかでシャルルのさわやかな笑顔が過ぎる、くそ、お前はいつもナチュラルに私を馬鹿にして。 お前の哀れむような目がどれだけ私を傷つけていたかわかるか! この誘いドSめ! この私が、私がどんな気持ちでお前のことを…… 悶々としていたら使い魔の少年に声を掛けられた、ええい五月蠅い――ってなんだそれは? パソコン? 異世界の技術? そこまで言うなら特別に見てやらないことも……って、すげぇ、○○○で×××で△△△だと!? 毎月大量のゲームがリリースされるうえに、回線を繋げれば世界中の猛者達と部屋にいながらにして勝負出来る!? うはっ、夢がひろがりんぐwww はっ、拙い、一瞬王族としての威厳が崩壊しそうになった。 しかしサイトの世界の技術は興味深い、配下に命じて調査させることにしよう。 アルビオンのクロムウェルが泣きついてきた? そんな奴知らん、無視無視。 いい暇つぶしのネタができたことに喜ぶ、配下の者たちに適当に暗躍させて暫く異世界の“科学”とやらに触れてみよう。 サイトはプチ・トロワの中庭で一人剣を振っていた。 サイトの身長よりも二倍もでかいおおざっぱな作りの大剣をぶるんぶるん音を立てて振る度に左手のルーンが輝き、そのたびにサイトは驚きの声を漏らす。 こんなでっかい剣を振ることが出来るなんて本当にガンダールヴ様々だ! 「暫く頑張ってみるか、ジョゼフって言う王様はひねくれてるけど悪い奴じゃないっぽいし……」 ぶるんともう一度剣を振るう。 刃の中心に填った蒼い宝石、無骨ななかに流麗さを秘めたこの剣はガリアの盗品市場に流れていたものだ。 出来は良いのになまくらと言う不思議な剣で、ゲームのなかの剣みたいだ! と言う理由でサイトが欲しがった為「か、勘違いするなよ、余のコレクションにするのだ。お前の為に買ってやる訳ではないのだからな」と現金一括でジョゼフが買い上げた。 「一度、こんな剣振ってみたかったんだよな!」 さすがサイト、お人好しである。 もっともサイトがこうして余裕を見せていられるのは、ジョゼフが元の世界の帰るのを是非協力させて貰いたい! と乗り気になっているからだ。 それほどサイトの世界の科学技術は魅力であったらしい。 「母ちゃん、心配してるだろうな……」 そう思って剣を置いた途端、巨大な竜の遠吠えと蛇に飲み込まれる蟾蜍の断末魔みたいな悲鳴が聞こえる。 慌てて剣を担いで向かった先に。 「ひぃ、うん……ひゃ、あっ、あっ、やめて、そこっ……ひんっ!?」 ――綺麗なイザベラ様がいた。 頬は真っ赤に染まり、口の端から涎が零れる、着ていた衣服はビリビリに破けておりかろうじてキワドイところだけが隠れていると言う状態。 その姿に普段の勝気さ、意地の悪さは微塵もない。 本来なら歓迎すべきであろう、イザベラ様が赤い竜の口の中でべろんべろんと飴玉のように舐られているのでなければ。 「やめぇ……離ひへぇ…………」 奇妙に鼻にかかった声に、サイトはゴクリと唾を飲み込んだ。 このイザベラ様、舐められているだけだと言うのに異常に扇情的である。 或いは、これこそが普段の姿に隠されたイザベラ様の真の魅力なのか!? 周囲の騎士達も状況が状況ゆえに手出しできずに顔を真っ赤にして、微妙に前屈みになって固まっている。 それは果たしてイザベラを人質に取られているせいかだろうか? ただイザベラ様のこそばゆい嬌声だけが響くなか、ドラゴンはゆっくりとイザベラ様の柔らかい乳房に牙を突き立てようとし…… 「お、お前。イ、イザベラをはっ、離せ!」 刹那、正気に戻ったサイトによって阻まれた。 サイトの左手のルーンと、右手に掲げた大剣が蒼い光を放つ。 その輝きにドラゴンは粟を食ったように慌ててイザベラを吐き捨てた。 「ぺっ」と言う食べかすでも吐くような音と共に、やたらと生臭くなったイザベラ様が涎塗れで吐き出される。 慌ててイザベラを抱き留めるサイトを一顧だにせず、真紅のドラゴンは一散にプチ・トロワの宮殿から逃げ出していいった。 「なんなんだ、一体……」 「ふぇぇぇ、サイト、サイト!」 王族の威厳も、普段築き上げた虚勢も何もかも放り捨ててサイトに抱き泣きじゃくるイザベラ様。 縋りついてくるイザベラをサイトも思わず抱き返す。 だが次の瞬間、イザベラ様は今更ながらに自分がほぼ全裸と言うことに気づき…… 「な、なな、何見てんだい!!」 猛烈なエルボーがサイトの顎に食い込む。 そのまま気を失ったサイトから服を奪い取り、イザベラ様は浴場へと走っていった。 「いくらなんでもデレが短すぎるって……」 そう呟いてサイトの言葉を理解できる者は、前屈みになった者たちのなかには誰もいなかった。 コルベールの手記 ヴァリエール嬢が召喚したドラゴンはどうやら韻竜だったようですな。 内密にしてくれと言われてるのも納得です、こんな素晴らしい使い魔アカデミーが放っておく訳ありませんからね! しかしヴァリエール嬢ならいつか必ずやると思ってました、努力はいつか必ず報われるものだと。 一人の少女が ゼロ と心無い中傷を浴び続け、それでも怠らなかった努力によって最高を使い魔を得た。それが自分が受け持った授業であったと言うのは教職にある者として心底嬉しいですぞ! しかし使い魔の胸に刻まれたルーン、あれは一体なんなのでしょうか? 見たことがないために色々資料を漁ってみましたが、一つも該当するルーンなし。 形として伝説のガンダールヴが一番似ていますが、しかしガンダールヴのルーンは神の左手の名の通り左手に刻まれるものの筈。ともかく要調査です。 しかもあのドラゴン君が私の蛇君の真価を分かってくれるとは! 本当にヴァリエール嬢は凄い使い魔を召喚したものです。 なんでも彼がもと居た場所には蛇君の技術が発展していて、馬なしに走る鉄の車や魔法なしに空を飛ぶ船があるのだとか。 特に蛇君の発展の基礎となった“蒸気機関”というものに興味が出ました、大まかな原理は教わったのでためしに作ってみることにしましょうか。 前ページ次ページゼロの英雄
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭だった。西側にある広場なので、そこは日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所であるとギーシュは考えていた。 予想通り、噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえってる。 その中心に佇むギーシュは、優雅な物腰を心がけながらも内心ややイラついていた。 「あの金髪の平民、随分な口を叩いていたけど、まさか逃げたんじゃないだろうね」 食堂から付いてきた取り巻きの一人が言う。 そう、決闘の相手が中々やってこないのだった。 しかし、ギーシュは彼が逃げたとは考えていない。 「それはないだろうね。この場合、使い魔の行動は主の行動だろう。あれだけの侮辱を行なった上に逃げたとなると、ゼロのルイズの面目は地に落ちるよ。ルイズは必ず彼をここに連れてくるさ。戦いに来るか、それとも謝罪によこすかは分からないけれどね」 薔薇を模した杖をぴん、と弾く。 もっとも謝ってきたところで、許す気はあまりない。誠意の見せ方次第だ。 「ギーシュ!」 その時、人垣を掻き分けてギーシュの方へ駆けるように近づいてくる者がいた。ルイズである。 「やあ、ルイズ。申し訳ないがこれから君の使い魔をちょっとお借りするよ。……しかし彼はいったいどこにいるんだ? まさかとは思うが、逃げたのかい?」 「……っ、知らないわよあんなやつ! それよりもギーシュ、バカな真似はやめて! 大体、決闘は禁止じゃない!」 「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」 「そ、それは、そんなこと今までなかったから……」 言い淀むルイズを、ギーシュは少しだけからかってやろうと思った。使い魔が失礼を働いたのだ。主が少々皮肉を言われても、文句は言えまい。 「ルイズ、君はあの平民が好きなのかい?」 どう反応するか、と思った。 まんざらでもないのならこの性格だから、顔を赤くして否定するだろう。 あるいは、本気で怒り出すか。 「――そんな、こと、」 しかしルイズの反応は、どの予想ともかけ離れたものだった。 彼女の顔が一瞬で蒼白になり、体が心なしか震えている。何か言おうとしているが言葉になっていない。 (……なんだ? 使い魔との間に何かあったのか) ギーシュが怪訝に思った時だった。 「ゼロのルイズの使い魔が来たぞーっ!」 野次馬たちの間からざわめきの波紋が湧いた。そちらに視線を向けると、くすんだ金髪が見えた。ルイズの使い魔が生徒達の層を抜けて決闘の場に入ってくるところだった。 「ふん、ようやく来たか。ルイズ、君は使い魔の側へ行きたまえ。 ――諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の杖を掲げ、うおーッ! と歓声が巻き起こる。 生徒達の声に腕を振って応えながら、ギーシュは使い魔が妙な物を肩から提げていることに気付いていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-06・a 「それは……何かの武器かい? それを取りに戻っていたから遅れたんだね」 ギーシュは鷹揚な仕草で、使い魔――ムスタディオの持つそれを眺めていた。 全長1メイルはあるだろうか。中心部は金属製の無骨な光を放ち、それを挟んで木製の取っ手と細長い筒が生えていた。 なんだか分からないが面白くなりそうだ、と思う。 「喧嘩じゃなくて決闘なんだろ。で、あんたたちは魔道士だ。素手でやるわけじゃないだろ」 「へぇ、よく分かっているじゃないか。そうだ、メイジである僕は魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「代わりにオレは、こいつを使わせてもらうぜ」 「ああ、それが君の剣であるなら何も言わないよ。 言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 言い放ち、薔薇を振った。舞い落ちた花びらが光をまとい、甲冑姿の女戦士へと姿を変える。 戦乙女ワルキューレを模った、青銅の身体を持つ彼のゴーレムだった。 傍にいたルイズが目の色を変える。 「ちょっと、ギーシュやめなさい! こんなことして何になるのよ!」 「ルイズ、もう決闘は始まってしまったんだ。外野が口を挟むのは無粋だな」 「そういう問題じゃないでしょ! む、ムスタディオもいいから謝りなさい! それにあんた、その武器――」 「ヴァリエール様は外に出ていてくれ」 ムスタディオが短く、しかし妙に存在感のある声を出す。 絶句するルイズを見て、ギーシュは目を細めた。 「いいからどいているんだ、ルイズ。僕は誇りを傷つけられた。許すわけにはいかない。同じ貴族たる君にも分かるだろ?」 「そ、それはあんたが悪かったからでしょ!」 よく通る声で非難するルイズに、薔薇を差し出す。 「僕が非があるのか、そうでないのを決めるのは君じゃない。既に全ての決定権は、この決闘にゆだねられているんだ」 薔薇に口付けをしてみせる。決まった。 「む、無茶苦茶なこ――」 決まったと思ってしまったので、ギーシュはそれ以上ルイズの話を聞かず、 「さあ、行けワルキューレ!」 命令を下されたワルキューレは突貫を開始し、 十メイルほどあった距離をあっという間に縮めんとし、 その先にいたムスタディオが金属の武器を構えるのが見え、 ぱん、と乾いた音が響いた。 その音は、直後に鳴り響いたガラスが砕けるような、そして金属が引き裂かれる不快音にかき消された。 騒がしかった声援や野次が一瞬で消えうせた。ギーシュも何が起こったのかすぐには理解できなかった。 ギーシュとムスタディオの中間で、ワルキューレが動きを止めている。いや、動こうとしているのだが、ぎしぎしと歪に蠢くのがやっとだ。 ――ワルキューレの甲冑の隙間という隙間から、大小様々なつららめいた氷柱が飛び出していた。 それは甲冑を押し広げ、青銅の体は原型を失うほど歪み、破壊されている。 結果、広場の中心に突如として大きな氷の華が花開いたような様相を見せていた。 慌てて華の向こう側にいるムスタディオを見る。構えた武器の筒の先から一筋の煙が上がっていた。 いや、違う。あれは冷気だ。 あの筒から――氷の魔法が飛び出したのか。 その時になって初めて、ギーシュは決闘相手がただの平民でないことを理解した。 「……これだけか?」 ムスタディオのつぶやきが聞こえた瞬間、ギーシュの顔から表情が失せた。 「……そうか、君もメイジだったんだね。厳つい外見にだまされたが、それは杖だったのか。 よかろう、なら僕も容赦はしない!」 ギーシュが薔薇を振ると、花びらが舞って新たなワルキューレが六体現れる。七体のゴーレムによる波状攻撃、これがギーシュの得意とする戦法であった。 先ほどまではただの平民と侮っていたから、一体で充分だと思っていた。 しかしこの相手は、そうはいかない。 全力で倒すに値する。 「美しく舞いたまえ、麗しの戦乙女達!」 ギーシュが薔薇を振り下ろす。それを合図に、六体のゴーレムが次々とムスタディオに向かって突進した。 人垣のざわめきが復活するが、直後に連続で鳴り響く銃声にかき消された。 ◇ 火蓋の切られた決闘を、様々な思惑の元に眺めている者達がいる。 ◇ 決闘を見物しに来た生徒たちの人垣。その最前列に、キュルケの姿があった。 平民と貴族の決闘なんてなぶり殺しである。しかも最近様子のおかしいルイズの使い魔だ。 心配した彼女は、我先に、という勢いで広場にやって来ていたのだった。 「彼、メイジだったのね」 生徒達がギーシュとムスタディオをそれぞれ好き勝手に応援している中、つぶやくように言う。 しかも中々の使い手と見える。皆があっけに取られている内に氷の魔法を次々に撃ち出し(しかも詠唱を必要としない魔法だなんて、見たことない!)、既に全部で三体のゴーレムを撃破していた。 最初はどうなることかと思ったが、これならヘタをするとムスタディオの方が勝ってしまうかもしれない。 少し安心していると、 「違う。あれ、魔法じゃない」 平坦な声の訂正を入れられ、キュルケは傍らを見下ろした。 タバサだった。最初は一緒にいなかったが、彼女の身長では人垣の中からは見えなかったのだろう。最前列に出てきたところを見つけて捕まえたのだった。 「あんたが野次馬根性発揮するなんて、珍しいわね」 そうからかってみたが、すぐに違うことに気付く。 タバサはいつもの通り無表情だったが、これは無表情を装おうとしているものだ。親友であるキュルケにはそれが分かった。 何を動揺しているのだろう、と不思議に思ったが、同時にタバサが他人に興味を持つのは珍しいことなので、それはそれで楽しい。 (さてはこれは、一目惚れかしら!) 恋に生きるツェルプストーが一人、微熱のキュルケは実に勝手な解釈をするのだった。 「で、それはそうと魔法じゃないってどういうこと?」 返事はない。 タバサは食い入るように、戦いを見守っている。 ふとキュルケは、そのタバサの両手に見慣れない手提げ袋があることに気付く。 握り締められて形の崩れた袋は、中に収まっている物のシルエットをあらわにしていた。 (珠か、石ころか何か……二つ、かしら?) そんなことを考えた瞬間、金属と金属がかち合うような鈍くて重い音が腹に響く。 慌てて広場に視線を戻したキュルケが見たのは、ゴーレムに体当たりを食らい、杖のようなものを弾き飛ばされるムスタディオの姿だった。 ◇ 「ふむ、どうも雲行きがおかしくなってきたのう」 そこは学院長室だった。 魔法で形作られた『遠見の鏡』を維持しながら、オールド・オスマンがコルベールに話しかける。 鏡に映し出されているのはヴェストリの広場、その中心で行なわれている決闘の模様である。 金髪の使い魔がゴーレムの体当たりを受ける。彼は最初の勢いで三体を倒したのはいいが、その後は数に物を言わされて苦戦しているようだった。 オールド・オスマンは、その右手に刻印されたルーンが淡い光を発しているのを見つめている。 「確かに君が持ってきた文献にある紋様と同じものじゃの。それに中々強力な魔法の使い手のようじゃ。しかし――伝説にあるガンダールヴの能力とはちと外れてはおらんかの?」 「そ、そのようですな……」 コルベールが興奮した様子で学院長室に飛び込んできたのは、少し前のことだ。彼はムスタディオのリハビリの際にスケッチさせてもらったルーン文字が、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのものに酷似していることを突き止め、その報告に来たのである。 しかし少し妙な事態になっている。伝承にあるガンダールヴは主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在で、あらゆる『武器』を使いこなし、千人の軍隊を撃退するというものである。 しかしコルベールが熱っぽく説明している傍で始まった決闘を見てみると、たった六体のゴーレムに苦戦し、しかも肉弾戦が主体ではないようだ。 「し、しかしまだ始まったばかりですし、彼がその能力を余すところなく発揮しているとも限らんでしょう」 コルベールは禿げた頭に光る冷や汗をハンカチで拭きながら、様子を見ましょうと促す。 「……いや、ワシとて彼がただの使い魔とは思っとらんよ。 ただ、何か条件みたいなものがあるのかと考えているだけじゃ」 「条件?」 オールド・オスマンは質問には答えず、代わりにこんなことをのたまった。 「あと彼、周囲の生徒達のことも考えて立ち回っておるようじゃのう」 ◇ 「――ふうん。あの杖、ああいう風に使ったらいいのね」 土くれのフーケは誰にでもなく、そう言った。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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back / top / next アオとギーシュが決闘してから、一週間以上が経過した。 決闘の後に何者かに倒され、重体の状態でギーシュ(なぜか裸足だった)が発見されたり、 感極まったマルトーがアオの唇に接吻しようとして、シエスタを筆頭としたメイドたちがフルボッコにしたり、 アオのお料理教室が大盛況になったり、 カップリングは『アオ×ギーシュ』か『ギーシュ×アオ』かで、一大論争が巻き起こったりしたが。 おおむね平和だった。 「決めた。明日、街に行くわよ」 ある日の夜。ルイズは握り拳を握りながら、力強く言った。 「? どうしたの、突然?」 アオは裁縫の手を休めて、ルイズを見た。 ちなみに今は、お料理教室生徒百人突破記念グッズ、赤い短衣を着た大猫のぬいぐるみを大量生産しているところだった。すでに六十体を超えるぬいぐるみが部屋中にあふれている。 ルイズも最初は、部屋が狭くなると文句を言っていたが、ここまでくると逆に諦めがつく。 あと、何気に可愛いかったのだ。アオから献上された、ブータと名づけられた二倍の大きさを誇る特別版は、彼女のベッドのお供になるほどのお気に入りであった。 「あんた、あれだけ戦えるんだから、剣だって使えるでしょ? だから剣を買ってあげるわ。 いつまでも石とか、そこら辺にあるもので戦わせてちゃ、わたしとしてもカッコつかないしね」 ここまでが建前。 本音は、やたらとアオの人気が上がって、自分の主としての立場に若干の危機感を覚えた末、ここは一つ、ご主人様の度量の広さを見せねば、と計画した事だった。 剣、すなわち武器を買う。 その事について、アオはまったく異論はなかった。 ルイズは知らないが、ギーシュとの決闘の後、正面切っての戦いでは不利と悟った男連中が、何度か闇討ちや奇襲を仕掛けてきた事があった。 人の目も無いことだったし、そういった連中はきっちりと、死なないレベルで再起不能にしてやった。もちろん証拠を残すようなヘマはしてないため、文字通り闇から闇へだ。 最近は、そういった手合いもいなくなったが、自分にとって未知である魔法を使う相手に、素手や環境利用で対応するにも限界がある。 何時、強力なメイジを相手にするとも限らない。 ルイズの提案は、まさに渡りに船だった。 「街か……楽しみだね」 「でしょ。思いっきり感謝しなさいね」 だからもう寝るわよ、とブータを抱き締め、ルイズは目をつぶった。 次の日。 虚無の曜日、すなわち休日である。 「はふぅ」 枕を抱きしめたまま、キュルケはため息をつく。 彼女は、最近眠れぬ夜を過ごしていた。 原因は、はっきりしている。 ルイズの召喚した平民の使い魔。 アオ。 その名を思うだけで、胸が高鳴る。 ギーシュとの決闘で見せたあの強さ。素手でメイジを倒すだなんて。 しかも、その後のモンモランシーの乱入時に垣間見せた、ユーモアに富んだ優しさ。 「ああ、ダーリン! あなたは、あたしに消えることのない火を点けたのよ。そしてそれは情熱という名の炎に変わったの!!」 キュルケは生まれながらの狩人だった。本来なら、即アタックなのだが。 正直、攻めあぐねていた。 チャンスを狙おうと、ちょくちょくフレイムに監視をさせているのだが、アオの周りには邪魔者が多すぎて、全然独りにならない。 あとルイズも、アオのそばをなかなか離れようとしないのだ。 「気持ちはわかるけどね」 微笑ましくもあったが、しかし、そんな悠長な事を言っている場合ではない。 キュルケは悶々とした挙句、 「よし、ルイズの部屋に行って、彼を口説こう」 爆発した。 そうと決めた彼女の行動は迅速だった。 着替えを済ませ、化粧をし、そして、ルイズの部屋の扉を叩いた。 が、返事が無い。 キュルケはなんの躊躇もなく、アンロックで錠前を外して部屋に入った。 最初に、目についたのは大量のヌイグルミ群である。 「あの娘、趣味が変わったかしら」 以前の殺風景さとはうって変わって、やけに乙女チックになった部屋を見回して首を捻る。 まあ、誤解なのだが。 だが、肝心のアオがいない。ついでにルイズも。 ここで諦めるという選択肢は、キュルケには無い。 タバサは、薄い本を閉じて、顔を赤くして呟いた。 「新世界」 本のタイトルは、『青の薔薇』 著者はケティ。自費出版の本だ。 ちなみに彼女は、今やギーシュ総受け派の旗手として、知る人ぞ知る人物であった。 しばらくぽーっとしていたタバサだったが、はたと正気に戻る。 「これは違う」 ぶんぶんと頭を振ってから、目を閉じて、思い出す。 あの男、アオの事を。 一体、何者だろう。 錬金の授業で、ルイズを助けた時に見せたあの動きから、只者ではないと思っていた。 ギーシュとの決闘で、それは決定的になった。 彼は、強い。 だから知りたいと思った……強くなるために。 だが、観察すればするほど、彼の底が見えなくなる。 決闘の時の彼と、料理教室で料理を教える彼。あまりにも違いすぎる。 それに一つ、気になる事もあった。 一度、自分の使い魔であるあの子、シルフィードに監視させようとしたのだが、できなかったのだ。 アオを見たあの子が、怯えてしまったから。 もう、なんでもいいから彼の事を調べようと手に入れた本だったが、まさかこんな内容だったなんて。 つい没頭してしまった自分に激しく自己嫌悪しながら、本の表紙を見るタバサ。 最初は、綺麗な薔薇の装丁だと思っていたが、内容を知った今だと、ただただ妖しい。 捨ててしまおうか。 でも、本に罪はないし。 タバサが本を手にそんな事を逡巡していると、どんどんとドアが叩かれた。 「タバサ~、居るかしら~?」 キュルケがドアを叩きながら声をかけると、ドアの向こう、タバサの部屋で凄い音がした。 「ちょっと、どうしたのタバサ?」 驚いたキュルケがさらに激しくドアを叩くが、返事がない。 慌ててアンロックで鍵を開け、部屋に入ると、 「……なにやってんの?」 ベッドの毛布に頭を突っ込んで、お尻だけこちらに向けているタバサを発見した。 「何?」 毛布を被ったまま、タバサがぼそっと言った。 キュルケは、そんな親友の姿を不審に思いはしたが、しかし、追求してる場合ではなかった。 「お願い、愛するダーリンがにっくいヴァリエールと出かけたの! しかも馬に乗って!」 ダーリン……ヴァリエール……あの使い魔の事か! キュルケが言い終わるまでもなく、全てを察したタバサが跳ね起きる。もちろん、どさくさに紛れて、本をベッドの下に隠す事は忘れない。 そして窓を開けると、口笛を吹いた。 彼女の使い魔、ウィンドラゴンの幼生、シルフィードが現れる。 「そうなの! あなたのシルフィードで追ってほしいのよ。話が早くて助かるわ」 シルフィードは、タバサを乗せると、遥か上空に飛んで行った。 キュルケを置いて。 「て、それじゃあ意味がないじゃない!!」 程なくして、タバサが戻ってきた。 「どっち?」 無表情のまま、短く尋ねる親友に、キュルケは苦笑いを浮かべることしかできなかった。 トリステインの城下町を、アオとルイズが歩いていた。 けっして広くない道が、人でごった返している。 「今日はお祭りか、何かなの?」 「いつもこんなもんよ。なんせ、ブルドンネ街はトリステインで一番大きな通りだし、宮殿にもつながっているんだから、当然といえば当然ね」 「へ~」 これで大通りなんだ、とか。 狭い、とかは言わないでおいた。 人ごみの合間、合間を、すり抜けるように歩くアオに比べ、ルイズはもみくちゃにされながら前に進んで行く。 ぷぎゃ! とか、ふぎゅ! などの悲鳴も時折聞こえた。 四苦八苦しながら前を行くルイズに、アオが声をかけた。 「ねえ、ルイズ」 「なによ」 「ここって、スリが多い?」 「まさか、あんた!」 ルイズが血相を変えて、振り返る。 「大丈夫。お金は無事だから、安心して」 アオは上着から、財布を取り出して見せた。ルイズから預かった、彼女の財布だ。 それを見てルイズは、ほっと無い胸を撫で下ろす。 「もう、脅かさないでよね。確かにここはスリも多いから、気をつけてよ。まあ、魔法でやられたら一発だけど」 「えっ、貴族がスリをするの?」 「違うわよ。貴族は全員メイジだけど、メイジが全員貴族ってわけでもないの。なかには傭兵や犯罪者もいるわ」 「なるほど。ちょっと数が多かったけど、ある意味運が良かったのか」 「?」 一方こちら、キュルケ&タバサの追跡組。 「これって全部、ダーリンの仕業よね」 ゴクリと唾を飲込んで言ったキュルケの言葉に、タバサが無言で頷く。 ルイズたちが通って行った後に、まるで目印のように所々で、人が倒れている。 皆、昏倒しており、さらに一様に、片腕の人差し指、さらに片足の二箇所があらぬ方向に曲がっていた。 「ん」 タバサの短い呟きに、キュルケは前を見た。 スリの男が、アオにぶつかり、その懐に指を忍ばせようとするところだった。 アオは見もせずに、その指を掴むと、逆に反らす。男の体が前屈みになったところで、空いた手の親指と中指で、後ろから首の頚動脈をつまむ。それだけで、悲鳴も上げられずに男の意識が飛ぶ。同時に軸足の膝を横から踏み折り、地面に落としながら極めていた指を折る。 一連の挙動を、アオは流れ作業のように澱みなく行なった。その間、一度も視線をスリに向けていない。 注意深く見ていなければ、突然倒れこんだようにしか見えなかった。 実際、前を歩いているルイズは、すぐ近くなのに気づいてもいない。 それほどに素早く、静かだった。 「ギーシュってば、命拾いしたわけね」 さすがダーリン、とキュルケが顔を火照らす。 悩ましげに体をくねらす親友の隣で、タバサはそれを冷静に見ていた。 たしかに凄い。けど、それ以上に。 寒くないはずなのに、背中がゾクリと冷えた。 どうしてあんな風に、何の意識も込めずに事を行なえるんだろう。 「ここね」 通りから外れた路地裏に、武器屋は在った。 ルイズが石段を登り、羽扉を開けようと手をかけたところで、アオが止める。 「まって。どうせだから、一緒に入ればいいと思うよ」 「一緒に?」 意味がわからず、怪訝な顔で聞き返すルイズ。 アオは、路地の影に向かって手招きした。 すると人影が二つ、こちらに近づいてくる。 「は、は~い、ルイズ」 バツの悪そうな顔をしたキュルケと、 「……」 視線を合せないように、そっぽを向くタバサだった。 「ツェルプストー! なんであんたがここに!?」 「プレゼント作戦で、ダーリンの気をひこうだなんて。そうは問屋がおろさないわよ、ヴァリエール」 「だ、誰が気をひくですって! てか、ダーリンって誰のことよ」 「も・ち・ろ・ん、この方。アオに決まっているでしょ」 そう言ってキュルケは、アオの腕に自身の腕を絡ませようとする。 ルイズは、その間に体ごと割って入って、阻止した。 「なにするのよルイズ」 「なにするのよ、じゃないわ! 人の使い魔に、なに手を出そうとしてるのよ!!」 「しょうがないでしょ、好きになっちゃったんだから。恋と炎は、フォン・ツェルプストーの宿命。ヴァリエール、あんたが一番ご存知でしょ」 「ぐぬぬぬっっ! よくもまあ、いけしゃあしゃあと」 彼女が宿敵というわけか。 アオは、一歩ひいた状態でルイズとキュルケの舌戦を観戦しながら、以前聞かされた話を思い出した。 袖を引っぱられ、視線を向ける。 「えーと、君は」 「タバサ」 タバサは、簡潔に自己紹介を済ませると、袖を引っぱったまま、店の羽扉を押し開いた。 先に店に入ろうという事か。 二人を見ると、さらにヒートアップしていた。 「そうだね、行こうか」 アオの言葉に、タバサは頷くと、引っぱりながら店に入る。 「何時、気がついた?」 タバサが、疑問を口にする。 自分もキュルケも、気づかれるような失敗はしなかったはずなのに。 「草原を馬で走っている時に、視線を感じてね。あの竜? に乗っていたのが君たちだったんだよね」 そんな最初から……! 「そう」 納得したタバサは、それ以上喋らなかった。 かなり無口な娘だな。 それがアオの、タバサへの印象だった。 武器屋の中は薄暗く、物が乱雑に陳列されている。 アオは、どことなく裏マーケットを思い出していた。 「冷やかしなら、お断りだ。さっさと帰んな」 店の奥でパイプをくわえていた親父が、チラリと一瞥しただけで、面白くもなさそうに言った。おそらく店の主人だろう、年齢より幼く見える小柄なタバサを連れたアオに対して、客だという認識は無い。 そうこうしているうちに、羽扉を乱暴に押し開け、盛大に足音を立てながら、ルイズとキュルケが入ってきた。 「冷か」 「客よ」 ルイズは主人の言葉を遮り、黙らせた。その迫力に、思わずパイプを取り落としそうになる。 そこでようやく、彼女たちが貴族である事に気づいた。 「こ、これは失礼いたしました。いったい貴族さまが手前のような店に何の御用で?」 「わたしの使い魔に、剣を買いにきたの。適当に見繕ってくれないかしら」 「なるほど。ここ最近、暴れまわっている『土くれ』対策ですね」 「土くれ? なによそれ」 「あんた知らないの? 土くれのフーケっていえば、貴族のお宝を専門に盗んで回っている、メイジの盗賊のことじゃない」 キュルケに小バカにされ、ルイズが顔を真っ赤にする。 「し、知ってるわよ、それくらい。だから、それがなんだってのよ」 「へえ、土くれを恐れた貴族が下僕にまで剣を持たせてるってぇ、小耳に挟みましてね。 ……そちらの方でしたら、これがよろしいかと」 そう言って親父は、細身のレイピアを倉庫から持ってきた。 「もっと太くて大きいのがいいわ」 ルイズの言葉に、キュルケが大きく頷く。タバサは無反応だ。 「ですが、そちらの方ですとこの程度が無難かと」 主人は小声で、素人が、と毒づく。 「ちょっといい」 そう言ってアオは、レイピアを手に取った。 剣を握ったとたん、体中に力がみなぎる。この感覚はウォードレスを装着した時と似ていた。 アオは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、こちらをじっと見るタバサの視線に気づき、笑って誤魔化した。 「振ってみてもいいかな?」 「ああ。かまわんですとも。店の物にぶつけんでくださいよ」 主人はニヤニヤ笑いながら言った。完全にアオの事をなめている。 ルイズたちに距離をとらせると、アオは素振りを始めた。 最初は、感触を確かめるようにゆっくりと。一振りごとに、ギアを上げてゆく。 一振り、二振りと数を重ねるにつれ、だんだんと主人の笑みが凍りつく。十から先は、誰にも数えられなかった。 刃の動きは、残像すら肉眼で捕らえることができず、絶え間なく聞こえる風切り音だけしか聞こえない。 「ふっ」 アオは短く息を吐き、素振りしていた腕を止める。だが、超速の素振りからの急停止に、レイピアの細い刀身は慣性エネルギーを吸収しきれず、根元から折れた。 「ひっ」 折れた刀身が、主人の頭のすぐ横に突き立つ。 アオは折れたレイピアの柄をカウンターに置き、にっこり笑った。 「すいません。もっと丈夫なのをお願いします」 「は、はい、た、ただ今お持ちします」 直立不動の姿勢から、大慌てで倉庫に駆け込む主人。 折れた剣を手放すと同時に、あの不思議な感覚も消えた。 試しにもう一度握ってみると、とたんにあの感覚が戻ってくる。 他のはどうかと、乱雑に積まれた剣に近づくと、 「坊主。てめ、ひょろっちい体している割には、たいした腕じゃねえか」 突然声をかけられた。 辺りを見回す。 ルイズ、キュルケ、タバサは首を横に振った。 「それ」 タバサが杖で、一本の剣を指し示す。 それは錆の浮いた、お世辞にも見栄えがいいとは言えない大剣だった。 「おう、俺だ俺」 「剣が喋った!」 さすがに驚くアオ。 「あら、インテリジェンスソードじゃない」 ルイズが物珍しそうに剣を見た。 「インテリジェンスソード?」 「意思を持った魔剣の事よ。にしても汚いわね、錆だらけでボロボロじゃない」 「んだと、このチンクシャ!」 「だ、誰が、チンクシャですってええぇぇぇ!!」 キュルケが、腹を抱えて笑っている。 「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 立派な大剣を抱えながら、店の主人が怒鳴り声をあげた。 「誰がデル公だ! デルフリンガーさまだ! ボケ!!」 「あー、うるせえ! 商売の邪魔だ黙ってろ!!」 主人はそう言って、デルフリンガーを鞘に収めた。 とたんに静かになる。 「いや、すいませんね。口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで、こっちもほとほと困っているんですよ」 「そんな駄剣、さっさと処分しちゃいなさいよ!」 怒り心頭のルイズ。 「いえね、こいつにも一応元手がかかっていますんで、はい。こうやって鞘に収めれば黙りますんで」 頭を下げながら、デルフリンガーを片付ける。 「旦那、先ほどは失礼いたしました。こいつがうち一番の業物。かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が鍛えあげた、鉄をも切り裂く魔法の大剣でさ」 「あら、いいじゃない。これにしましょう」 一番という響きが気に入ったルイズは、早速値段を聞いた。 「エキュー金貨で二千。新金貨で三千になりまさ」 「ぐっ、た、高い」 想定以上の金額に、ルイズが思わず呻いた。 「そりゃ名剣ってのは値がはるもんですぜ」 「デルフリンガーはいくらなの?」 「ちょっとアオ! そんな剣、イヤよわたし」 「まあ、あいつなら厄介払いの意味もあって、百でいいですが」 「や、安いわね」 安さに心揺れるルイズ。 「で、でも、やっぱりイヤ。あんな暴言吐くうるさい剣なんて。静かで綺麗なやつがいい!」 ルイズは、イヤイヤと、首を左右に振る。 アオは、ルイズの肩に手を置くと、神々の心をも溶かすような笑顔を浮かべて、優しく言った。 「君にまた何か言うようなら、大丈夫。消してあげるから」 主人から剣を受け取ると、鞘から抜き放つ。 「聞いてたろ? 僕は君を買う事に決めたよ。でもまたルイズに何か言ったら……折るよ」 「おもしれ! やれるもんならやって……」 剣は威勢よく喋り始めたが、とたんに押し黙った。 それからしばらくして、剣は小さな声でぽつりと言った。 「おでれーた。てめ、『使い手』か」 「『使い手』?」 「それにてめ、怖ええな。こんな怖ええやつあ、初めてだ」 使い手? 怖い? 何とか聞き取ったタバサは、剣の言葉に首をかしげた。 「いいだろ、てめに買われるなら文句はねえ。そっちの娘ッ子にも、なんも言わね。 てめ、名は?」 「アオ、だよ。デルフリンガー」 「アオか。俺のことはデルフでかまわねえ。よろしくな相棒」 結局、デルフと投げナイフを十本買って、ルイズたちは店から出てきた。 「じゃ、ここでお別れね。また後でねダーリン」 手をヒラヒラさせながらキュルケは、なにやら考え込んでいるタバサを連れて、去っていた。 「ツェルプストーのやつ。やけにあっさり引いたわね」 まあ、学園に戻ったらまたちょっかいを出してくるだろうけど。 「あんた、キュルケには気をつけなさいよ」 ルイズはアオに念を押すと、馬を預けた駅に向かって歩き出した。 二人が完全にいなくなった後、密かに武器屋に入る赤い髪の人影が。 その夜、武器屋の主人は自棄酒をし、涙で枕を濡らす事になるのだった。 back / top / next
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ルイズが召喚したのはよく分からない薄い箱だった。両手で掴むとしっくり来る程度のサイズで、ツルツルしているのにガラスのような硬度は無い不思議な感触。 コルベールが言うには天地が吹っ飛ぶほどの魔力が込められているらしく、呆然として契約してしまった後でオスマンまで一緒になって調べていた。 まあとにかく凄い使い魔だということで、相変わらず魔法は使えずともゼロだのなんだのとは言われなくなったのだが、学校のメイジ全員をかき集めても使い方が判らないというのだけが問題だ。 研究だ何だと理由をつけて取り上げられてしまっていたが、召喚の儀式から2回の虚無の曜日を挟み、今さっき渋い顔をしたコルベールが部屋に持ってきてくれた。 「ミス・ヴァリエール。ともかく凄い使い魔なのだから、大切にしなさい……」 と言っていたが、ならいきなり取り上げる事は無いんじゃないかなと思うルイズである。ともかくまずは自室の机に座って、台形に近い形の使い魔をじっくりと見つめた。 左側に十字の突起があり、右側には○と×のかかれた丸い突起がついている。色は全体的に蒼いが、突起の間には白い長方形が描かれており、そこが最もツルツルしていて不思議な感じだ。 厚みは2セントほどで、裏側と思われる方にはプロアクションリプレイなる文字が書かれていた。ミスタ・コルベールはそんな事を言っていなかったけれど、見落としたのだろうか? 文字の下には使い魔のルーンがしっかりと刻まれており、やはりこの不思議な箱が使い魔なのだと再認識する。 「ほえっ?!」 振ったりひっくり返したりしていたら、ピコーンという耳慣れない音が響く。うっかり落とすところだったが、なんとか持ち直して表を向けた。 長方形の部分が光を発しており「ホンセイヒンハ ヤマグチノボルシ ノ セイシキナ ショウヒンデハ アリマセン」という文字が浮かんでいる。はっきり言って意味不明だ。 分からないのでとりあえず×のボタンを押してみると、長方形の部分がめまぐるしく色を変え始めた。 -ゼロの超インチキな使い魔- みたことも無いほど色鮮やかな何かのマークが浮かんだと思ったら、再び画面に文字が現れた。ルイズは興奮に肩を震わせながら見つめる。 長方形の中の左のほうに、上から順に「マホウ」「スキル」「ステータス」「アイテム」等と並ぶ。十字の突起で上下を選べるようだ。 出来るだけ刺激を与えないように箱をそっと机の上に置き、細心の注意を払いながら最も興味のあった「マホウ」を選択して○を押した。再び画面に光が踊る。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「カゼLV-- ツチLV-- ミズLV-- ヒLV-- キョムLV00 セイレイLV--」 「カイゾウ シタイ コウモクヲ エランデ クダサイ」 現れたのはそんな文章だった。まだよく分からないが、キョムLV00というのがルイズの目を引く。他のは--なのにこれだけ数字だ。 まさか自分が虚無の訳がないが、勝手に自分の名前が書かれていることを考えると、もしかして魔法の才能を見られるマジックアイテムなのかとルイズは思った。 十字を動かしてキョムLV00を選択し、○を押すと再び画面が切り替わる。 「キョムLV■■」 「ジュウジキー ノ ジョウゲ デ センタクシテ クダサイ」 「ケッテイ○ トリケシ×」 ゼロという数字が非常に気に食わなかったので、とりあえず限界まで上げて○を押してみた。確認の文字が出たが当然○だ。 「……?! な、なによこれっ!」 頭の中を無数の呪文が駆け巡っていく。エクスプロージョン、イリュージョン、ワールドドア、ディスペル……。 同時に世界がクリアになったかのように広くなり、体の中の魔力とその扱い方が息をするみたいに分かった。まさか、そんなわけが……。 「い、イリュージョン!」 一番安全そうだった呪文を唱えながら杖を振ると、机の上に手の平サイズのちぃ姉さまが現れた。これはヤバイ。マジでヤバイ。 使い魔を見ると先ほどの文字に切り替わっていたが、キョムLV00がキョムLV99に変わっている。もしかして虚無極めちゃったとか? 鼻息を荒くして片っ端から選択し、同じように表示されていた魔法全てを限界まで上げた。温度も空気の流れも敏感に感じるようになったきがする。ついでにフヨフヨしてるセイレイまで見えた。 「錬金! 偏在!」 魔法は当然のように成功。今までの努力は何だったのかと小一時間ほど文句を言いたくなり、金の山を前に偏在で20人に増えた自分同士であれこれと言い合う。 瞬時にして全ての魔法をマスターしてしまったルイズは、更なる物を求めて使い魔を手に取った。 「私は生まれ変わった! 無敵として! 最強として! おお、世界はこんなにも素晴らしい!」 あれからステータスの部分も弄り、魔力やら回復率やら体力やらも限界まで上げた。力とか素早さは筋肉ムキムキになったら嫌なのでちょっとにしておいた。 胸のサイズも変えられたが……。部屋が胸でひどい事になったので保留にした。あんなにいらないよ、というわけで相変わらずのツルペタ。 でもいつでも巨乳になれると思えば、重いものを常にぶら下げているより余程よい。もう一晩中走っても疲れないけどね。 試しに自分の部屋が金で埋まるほど錬金してみたけれど、どんなに魔法を使っても殆ど魔力を使わないし、使っても瞬きをすれば直っているので使い放題だ。杖を持っているフラグとやらを立てたら素手でもよくなった。 出会った人間全てに抱えるほどの金貨と水の秘薬を押し付けながら食堂に行き、1本で家を買えるほど高価なワインを増産して厨房に持っていく。もう目の前はバラ色過ぎた。 廊下に蒔いて歩いた金を取り合う生徒を肴に、豪華な料理と最高のワインに舌鼓をうつ。たまに流れ弾が飛んでくるけれど、カウンターを使っているのでルイズだけは平穏。 ワイングラスを傾けながらデザートを待っていると、タバサという生徒が心を直す薬とやらの話をしてきた。機嫌は最高潮なのでシャワーで使えるほどプレゼントする。この幸せを皆で! ……その日から本当に色々な事があった。 例えばワールドドアで実家に日帰りして、ちぃ姉さまを水の秘薬を沸かしたお風呂とマジックアイテムを駆使して治したのが次の日。 ハヴィランド宮殿にワールドドアで直接行って、周囲を取り囲んでいたレコン・キスタを40人の偏在と100体の巨大鋼鉄ゴーレムで完膚なきまでに叩き潰したのが一週間後。 アンリエッタとウェールズ皇太子との結婚パーティーが1ヵ月後。 タバサの要望でガリアに突撃して、シャルルを生き返らせた後で泣き崩れるジョゼフを蹴り飛ばし、タバサが女王になったのが2ヵ月後。 始祖ブリミルの再来だとか言われて、ロマリア教皇になれだのなんだのと信仰され始めたのが、たしか半年後。 頼まれたので四つの四とやらを増産して四百の四(ルイズに全ての使い魔のルーンフラグを立てた)にして卒倒されたのだけはよく覚えている。 ちなみに現在、200台のタイガー戦車(ガンダールヴにした兵士が操縦)と共に聖地を目指している真っ最中だ。 でも砂漠は暑くて嫌だったので、MAP属性を変更して草原に変えた。だって土ぼこりで煙いんだもん。皆も喜んでるしこのぐらいはOKよね? 先行で飛んでいった50機のゼロ戦部隊(同上)はもうついている頃かな。ワールドドアでいけるフラグは立ててあるんだけど、やっぱり折角だから最初ぐらい自分の足で行かないと。 「おお! 見えてきましたぞー!」 髪の毛をふさふさにしてあげたコルベールの声が戦車の中から響いた。一緒に装甲の上に座っている皆も興奮した声を上げる。 ガンダールヴなシエスタ、ミョズニトニルンにしてヴィンダールヴなタバサも楽しそうだ。キュルケはゼロ戦に乗って先に行ったはず。 ワルドは母親を生き返らせると極度のマザコンが発症してしまい、赤ちゃんルックで「ママ、ママ」とすがり付いていたので連れてこなかった。あの光景は実に忘れたい。 「とうとう来ましたね! 何があるんでしょうか!」 「ふふん。それを確かめるのよっ!」 地平線の向こうに影が見える。はたして聖地には何があるのかしら? 召還した物 プロアクションリプレイ
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前ページ次ページゼロと電流 ルイズの虚無曜日の朝は爽やかに始まった。 大きく伸びをして外を見ると良い天気。出かけ日和だ。 夜の内に汲んでおいた水で顔を洗い、服を着て出かける準備を整える。 数日前まで壁に立たせていたザボーガーはいない。 ザボーガーがルイズの部屋からいなくなった日、学生寮となっている塔のすぐ外に、小さな馬小屋のようなものが建てられた。そこにザボーガーは、マシンザボーガーの形で停められている。 小屋を建てたのはコルベールである。 別にルイズが要求したわけではない。コルベール、いや、学園側から言い出したのだ。 まず最初に、ルイズが依頼した。ザボーガーに固定化の魔法をかけてもらえるように、コルベールに頼んだのである。 ルイズにとって、ザボーガーの仕組みは謎である。しかし、メットから流れ込んできた感覚と情報から、少なくとも自分たちが思っているようなゴーレムでないことはわかった。 その構成は、生物と言うよりもアイテムに近いものだとも思える。 だから、固定化を依頼した。それも、厳重に。できるなら、学園の宝物庫並みにと。 コルベールが無理ならば他の先生に。それがダメなら外部に依頼してでも。そのためのお金はある。実家から送られてくる仕送りは、アイテムに固定化の魔法をかけることを生業としている特化系メイジを雇っても充分に足りるだろう。 しかし、コルベールはあっさりとルイズの依頼に応じた。 物わかりのいい教師であり、人格的には円満だと言われるコルベールとはいえ、あまりの気軽さにルイズは逆にいぶかしむ。 個人を、しかもヴァリエール家の娘である自分に対してのみ贔屓したと思われては、教育者としてはいかがなモノだろうか。 その疑問はすぐに解けた。コルベールは交換条件を出したのだ。 「ザボーガーを調べさせて欲しい」と。 コルベールは、ザボーガーの変形を見ていた。そして、召喚時にザボーガーがマジックアイテムであるかどうかを調べたのも彼である。結果として、ザボーガーに魔法がかけられていないことは彼が一番よく知っている。 つまり、ザボーガーの変形や機動には魔法は一切関わっていない、関わっているとすれば未知の魔法である、と断言できるのだ。 だから調べたい、と。 ルイズに否はないが、一応の条件を付ける。それは、ザボーガーを観察するのはいくらでも良いが、基本的に動かさないこと。見えない位置を見るのにレビテーションをかけたりするのは仕方ないだろう。しかし、勝手に触るのは基本的には却下である。 コルベールはその条件を呑んだ。 そして、次に提案されたのが小屋である。 コルベールがザボーガーを調べるのは必然的に放課後が多い。その殆どが夜だろう。 教師が女生徒の部屋を毎夜毎夜訪れるというのは拙い。さすがに拙いのだ。 それに、ルイズが塔内でザボーガーを乗り回すのは周囲にしてみれば危なく、そして五月蠅い。音はまだしも事故の危険はないとルイズは力説するが、その辺りは事実よりも周囲の印象である。 ザボーガーは塔の外に置かれることになった。ただし、他の使い魔の溜まり場に置くことはできない。それはコルベールが困る。 だから、急遽小屋を建てたのである。 ザボーガーの元いた世界風に言えば、要は「バイク置き場」である。 その「バイク置き場」へ向かおうと、ルイズはドアに手を触れた。 開かない。 建て付けが悪くなったのか、と思ったが、押しても引いてもびくともしない。 「……ツェルプストー?」 昨夜を思い出すルイズ。 「明日、城下町まで行くんでしょう?」 夕食を追え、最近日課になったマシンザボーガーによる学園一周を終えたルイズにキュルケがそう尋ねる。 「行くけど?」 「私も街へ行きたいのよ」 「行けばいいじゃない」 「ザボーガーに乗せてくれない?」 「はあ? ザボーガーは私の使い魔よ」 「タバサのシルフィードだって、私は乗せてもらったわ」 それとも、ザボーガーには二人乗りはできないのか、とキュルケは嫌みっぽく言う。 「そんなひ弱な使い魔には見えないけれど?」 「ザボーガーの力じゃなくて。私が嫌なの」 「どうして?」 「……貴女ねえ、私がヴァリエールで貴女がツェルプストーだって忘れてない?」 首を傾げるキュルケ。 「私は、貴女がルイズで私がキュルケだと思ってたけれど?」 言外に、家など知らないと斬って捨てている。ツェルプストーとてゲルマニアでは押しも押されもせぬ名門だというのに。 そんなキュルケの言葉に、何故かルイズは赤くなる。 「と、とりあえず駄目なモノはダメ! 街へ行きたいなら、貴女の友達の風竜にでも乗せてもらいなさいよ」 「タバサのシルフィードね。でもあの子に虚無曜日出かけさせるのは割と重労働なのよ」 「そんなの知らないわよ。だったら学園の馬を借りればいいじゃない」 「馬はねえ。確かに楽しいけれど、ここの馬は匂いがきついわ」 「なにそれ、トリステインの馬が嫌なら、ゲルマニアから連れてくればいいじゃない」 「餌が違うのかしら?」 「だったら、大ムカデにでも乗ってきなさい」 「それはお断り」 キュルケは真顔で即答した。 使い魔召喚の日、一人が大ムカデを召喚して涙目で契約していたのはキュルケもよく覚えている。 あれはちょっと……キモい。キュルケは密かにその女生徒に同情していた。 学園には他にも色々な使い魔がいたが、乗って早いのはダントツにタバサのシルフィードである。 しかし、ルイズは心密かに自慢していた。 空こそ飛べないが、スピードならマシンザボーガーは風竜にも負けない。学園のスピードナンバーワンは自分の使い魔ザボーガーなのだと。 その一連の出来事。 つまり、今日キュルケはザボーガーに乗ろうと企んでいる。そして、ザボーガー自体は塔前の小屋にあるが、ルイズでなければ動かすことはできない。 ザボーガーは無視しても、ルイズの身柄を確保すればよいのだ。 そして開かないドア。 ルイズは悟った。 キュルケが外からロックの魔法をかけたのである。アンロックの使えないルイズにはドアを開けることはできない。因みに他人の部屋のドアへ勝手にロックやアンロックをかけるのは校則違反なのだが、キュルケは全く気にしていないだろう。そもそも証拠はない。 一瞬、ドアを爆破してやろうかと思うルイズ。ドアに触れて練金なりレビテーションなりを唱えれば簡単だ。魔法が失敗して爆発する。 しかし、外側からならまだしも中側である。部屋にも多少の被害は出るだろう。 少し考えるルイズ。 ふと思いついて、これだけは部屋に置いてあるヘルメットを被る。 ヘルメットから伝わってくるザボーガーの性能をよく吟味する。 よし、可能だ。 ルイズは、メットのインカムを下ろした。 「ザボーガー、私の部屋まで来なさい。静かにね」 付け加える。 「塔の外を登ってくるのよ」 そしてルイズは、慌てるキュルケの顔を想像してほくそ笑むのだった。 「さて」 楽しげに呟いて、キュルケはルイズの部屋の前に立つ。 そしてアンロック。 「おはよう、ルイズ」 いない。 誰もいない。 「え?」 窓が開いている。 「あの子、まさか」 慌てて窓から下を見ると、なんだか桃色のもこもこしたものがマシンザボーガーにしがみついていた。 そしてマシンザボーガーは、塔の壁面に垂直に立っている。 「……ルイズ?」 キュルケは何となく猫を思い出した。 高いところに上がったはいいが、降りられなくなってしまった猫を。 キュルケは窓から出た。当然、フライの呪文を唱えている。 ゆっくりと下がり、ルイズの前へ。 「何やってるの? ルイズ」 「……なさい」 「はい?」 「……なさい」 「聞こえないけど」 「下ろしなさいって言ってんのよ!」 叫び、顔を上げたルイズは体勢を崩し、慌ててザボーガーにしがみつく。 「もしかして、ザボーガーで降りようとしたの?」 こくり、とルイズは頷いた。 「途中で怖くなって、動けなくなった?」 こくり やってきたザボーガーに乗って窓から出たまでは良かった。気分が高揚していたのだ。 ところが、途中で我に返ると高さが怖い。 思わずザボーガーを停めてしまい、それが裏目に出たのだ。 「これくらいの高さ……」 言いかけて、キュルケは口を閉じる。 ルイズは魔法を使えない。建物の中にいない限り、この高さに上がってくることはできないのだ。つまり、今日が初体験。 キュルケは初めてのフライを思い出す。確かに、自分は怯えていたはずだった。いや、誰だって怯えるだろう。ルイズだって例外ではないのだ。メイジが高さを恐れないのは、自力で飛べるからだ。 キュルケはゆっくりとルイズに手を伸ばす。 「動かないでよ、ルイズ」 背中から手を回し、しっかりと抱き留める。 「ほら、ザボーガーを放しなさい」 「だ、大丈夫?」 「貴女一人くらい平気よ。ザボーガーは自力で降りられるんでしょう?」 「ザボーガー、私が離れてからゆっくりと降りなさい」 そろそろと壁から離れたキュルケは、ルイズをゆっくりと地面に下ろす。そこではザボーガーが主を待っていた。 ルイズは、ザボーガーに寄りかかるようにして側に立つ。その視線は、地面に向けられていた。 「……まさか、こんなに高かったなんて。……いつももっと高いところから景色を見てたのに……」 実際、何もない空をフライで飛ぶよりも、高い木や建物のそばの方が高さを実感できるのは確かだ。 さらに、ルイズは自分の身を保持していなかった。ザボーガーから滑り落ちればそれでおしまいの体勢だったのだ。ザボーガーはシルフィードやフレイムとは違う。背中に乗る者が落ちないように支えることはできないのだ。 慰める言葉をキュルケは探せなかった。自分は飛べる者。助けた者。何を言ってもルイズには届かない。 だから、キュルケはこう言った。 「克服するものが増えたわね」 魔法がゼロでも座学はトップ。貴族として正しく振る舞うことを心がけ、その誇り高さは誰にも負けない。そのルイズなら、克服で きないものなどない。 いや克服してもらわなければ困る。 そうでなければ、自分の立場がない。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールをライバルと決めたキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの立場が。 ヴァリエールとツェルプストーは、国境のそれぞれトリステイン側とゲルマニア側に領地を構えている。いわば隣同士だが、裏を返せば紛争の当事者同士でもある。 幼い頃の園遊会で引き合わされてから今まで、キュルケはルイズに負けたと思ったことはない。ヴァリエールに負けるなと言われ、その言葉に自分でも納得していた。 負けたことはない。魔法も使えないゼロに負けるわけがない。とキュルケに近い者は皆が言う。 違う。とキュルケは言う。 違う。魔法が使えないから勝っているのだ。 もし同じ条件なら。 自分がゼロなら? ルイズが魔法を使えれば? 自分は、ゼロと呼ばれてもあれだけ頑張ることができるだろうか。周囲の白眼視を無視して自分を高め続けることなどできるだろうか。 ある意味でキュルケはルイズを尊敬し、同時に恐れていた。ルイズが魔法を使えるようになる日を恐れていた。そうなれば自分など足元にも及ばないのではないだろうか。 しかし、実際にルイズがサモンサーヴァントを成功させたとき、キュルケが感じたのは恐れではなかった。それは、喜びだった。 これで、対等に戦える。同じ立場で比べることができる。 使い魔が喚べたのだ、他の魔法だって時間の問題だろう。 それに比べれば、高いところが怖いなどなんだというのか。 「そうね」 果たして、ルイズは顔を上げた。 キュルケを睨むように見つめる目は、いつものように輝いている。 「これくらい、どうって事無いわよ。どうせいつかは飛べるようになるんだから」 「あら、それっていつかしら? まさか、お婆ちゃんになってから飛ぶなんて言わないわよね?」 だからキュルケはそう返す。 そして、ルイズも。 「ふんっ、見てなさい。貴女よりうんと高く早く飛んで、今度は私が貴女を助けてあげるから」 とりあえず、とルイズは続ける。 「当面の借りは返すわよ」 ザボーガーに跨ると、キュルケをじっと見つめる。 「乗るの? 乗らないの?」 「ええ。乗ってあげるわ」 輿に乗る女王のように優雅に、キュルケはザボーガーに跨った。こんな事もあろうかと、スカートの代わりにズボンを穿いている。 そしてルイズはアクセルをふかすのだった。 そんな二人の姿が学園から充分に遠ざかったところで、上空から青い竜……シルフィードが舞い降りた。 その背には、タバサが乗っている。 「追跡」 「わかったのね、お姉さま」 きゅい、と一声啼くと、シルフィードは力強く翼を広げるのだった。 前ページ次ページゼロと電流